《パンドラの箱》のエピソードはほとんどの方がご存じでしょう。
「絶対開けてはならない」箱。
それを開けたら、取り返しの付かない事態が起こってしまう最後の禁忌。
人類にとっては原子力だったのではないかと感じる昨今ですが、今回はこのヒロインについて紹介します。
人間に使わされた最初の女と箱
まずはパンドラがなぜ誕生したのか、説明します。
人間に同情的な神プロメテウスが火を与えたために、人間の生活水準は向上しました。
しかし、それを好ましく思わない主神ゼウスが人間に禍を与えようと、ヘパイストスに作らせたのがパンドラと言われています。
プロメテウス自身も罰を受けたことは、彼の章で紹介しましたね。
パンドラは魅力的な美しい女性でした。
しかし、好奇心旺盛…と言うより、軽はずみな性格と言った方がぴったりだと思われますが、神々から「これ絶対に開けてはいけない」と命じられた箱(壺という説もあります)を開けてしまったのです。
「するな」と言われたら余計したくなるのは本能ですよね。
『鶴の恩返し』だって「見るな」という約束を破って見てしまったことで別れが来たのですから。
パンドラが開けてしまった箱の中からは人間に対するありとあらゆる厄災(病気、天災など)が飛び出しました。
これらは比重が軽かったので、すぐさま外へ出たと言われます。
しかし、比重が重いものはなかなか外へ出られなかったので、箱の底に残っていたそうです。
唯一残ったものが《希望》だったのです。
土星の衛星
人間に禍をもたらした女パンドラですが、関係する星があります。
まずは土星の第17衛星。
実は彼女の夫エピメテウスの名前が付いているのです。
彼はプロメテウスの弟で、先見の明がある兄から「ゼウスからの贈り物は何であれ、絶対に受け取ってはならない」と命令されていたにもかかわらず、魅力的な美女にのぼせあがり、いただいてしまったのでした。
その結果がパンドラの箱オープンというゼウスにとっては期待どおりの結果になってしまったのです。
またパンドラの名前を持つ衛星もありますが、重力が弱く球形を保つことができないため、いびつな形をしています。
夫婦揃って、クロノス(ティターン族)の衛星となっているのは、当時の人々がお騒がせ夫婦として認めているからなかも知れませんね。
パンドラとエピメテウス
ゼウスの命により、息子ヘパイストスは人類最初の女性パンドラを作りあげました。
泥から作った…という点では、中国神話や日本神話にも共通していますね。
パンドラはヘパイストスから若々しい美貌を授かり、知性と芸術の女神アテナからは機織りなどの技術(女性の担当部門)を教えられました。
また美の女神アフロディーテからは色気(最大の武器でしょう)と愛の喜びを、伝令の神ヘルメスからは賢さ=狡猾さを吹きこまれたと言います。
そして、絶対に開けてはならないと厳命の上で、一つの箱を贈られました。
《パンドラ》と名づけたのはゼウスで、《パン》は《すべて》、《ドラ》は《贈り物》を意味するそうです。
要するに、《神々が人間に贈る全てのもの》という意味でしょう。
その贈り物が人間にとって最良とは限らないことは言うまでもありません。
さて、神々から全て贈り物を与えられてパンドラは地上に降りました。
そして言われたとおり、プロメテウスの弟エピメテウスを訪ねたのです。
兄プロメテウスからの忠告をすっかり忘れ、パンドラの美しさにすっかり魅了されたエピメテウスはいそいそとパンドラを受け入れました。
プロメテウスの章で説明しましたが、【エピローグ】というのはエピメテウスにちなんだという説があるほどで、要するに《後付けの知恵》と言われているのです。
考え無しに、目先のことに飛びついてしまうことの軽率さを皮肉っているのだと思われます。
開けてしまった禁断の箱
パンドラが持ってきた箱をエピメテウスは大事に保管しておきました。
根は素直なのでしょう、彼は言われたとおり箱を開けようとはしませんでした。
ところが、パンドラは違っていました。
夫が留守の間、退屈になったのか、次第に箱への興味が大きくなっていったのです。
ついに彼女は禁忌を犯しました。
箱を開いてしまったのです。
そして中から人間にとっての厄災が飛び出しました。
あわてたパンドラが蓋を閉めたときには既に遅く、人間界のあらゆる場所に禍が拡散してしまったのです。
しかし希望だけは残りました。
だからこそ、【人間はどんなに悲惨な目に遭っても希望だけは持てるのだ】と言われます。
逆説的に、【希望を持ってしまうからこそ、人間は叶わぬ無駄な努力をしてしまう。だから、希望こそが最大の厄災なのだ】という解釈もあるそうです。
知らぬこととは言いながら、ゼウスの手先になり、人間に災厄をもたらしたエピメテウスとパンドラですが、夫婦仲は良好だったようで、ピュラという娘が生まれています。
そのピュラはプロメテウスの息子で信心深いデウカリオンと結婚し、ゼウスの大洪水を生き延びて新たな人類の祖となったそうです。
デウカリオンは旧約聖書のノアにあたる人物と言われています。
パンドラ~禁断の箱を開けてしまった好奇心旺盛な人類最初の女性~ まとめ
人間を罰そうとしたゼウス。
その手先となってしまったエピメテウス・パンドラ夫婦。
その娘は従兄弟でもあるデウカリオンと結ばれ、新たな人類の祖先になりました。
目障りなプロメテウスの子孫が新たな世界を開くということはなんとも皮肉な巡り合わせではないかと思うのですが、全知全能のゼウスのこと「これも想定内」とオリンポス山頂から笑っていたのかも知れませんね。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。