オシリス、イシス、セトの妹ネフティスの登場です。あまり知名度はないようですが、個性的な4兄妹の一人ですから、なかなか一筋縄ではいかない女性だったようです。
兄であるセトの妻ですが、実はもう一人の兄オシリスとも不倫関係があったようです。姉でありオシリスの妻だったイシスとの仲が心配されるところですが、さてどうだったのでしょう?
セトの妻はオシリスの味方?
ネフティスは大地の神ゲブと天空の女神ヌトの娘でありオシリス、イシス、セトを兄姉とする末っ子と言われています。ネフティスという名前には【城の女主人】という意味があるそうです。以前紹介したイシスが夫オシリスや、玉座を神格化した存在とされているのに対して、ネフティスは王の城を神格化した存在とそれているようです。
彼女の姿は、人間の女性または腕に羽をつけた女性の姿で表現され、古風な衣装を身に付け、様々な宝石で作られたアクセサリーを身につけた姿で描かれることが多いようです。
ネフティスの別名
【ネベト=ヘウト】とは古代エジプト語での呼び方です。
【葬送の女神】というのは後で紹介しますが、冥界の王となったオシリス復活に関わったためと思われます。
神話によるとネフティスは兄セトと結婚していましたが、実は恋焦がれていたのは同じ兄でも長兄のオシリスだったとか。しかし、ネフティスは既に結婚していましたし、オシリスにもイシスという妻がいました。不倫になるとわかっていながらも、ネフティスの気持ちは抑えられなかったようです。
なんとかしてオシリスと関係を持とうと必死になったネフティスはオシリスを酔わせたり、イシスに変装したりとあらゆる手を使って努力したそうです。言うまでもなくイシスとネフティスは姉妹ですから、顔もプロポーションもそっくりだったようです。
執念とも言えるネフティスの願いが叶い、彼女は恋するオシリスに抱かれることが出来ました。その結果、兄との間に子どもが出来たのです。オシリスとネフティスの不義の子が、犬の頭を持つという冥界の神アヌビスです。ギリシャ神話の地獄の番犬ケルベロスを連想しますね。
思いが叶ってオシリスと結ばれたネフティスでしたが、夫セトの怒りを怖れ、彼女は自分の子アヌビスを捨ててしまったのです。何とも勝手な母親ですね。
このアヌビスは叔母であり、義母でもあるイシスに拾われて彼女の養子になって、補佐役として活躍しました。
ネフティスが不義を働いた理由は、子どもが欲しかったのに、セトが夫婦関係を拒絶したからだという説もあります。つまり子どもが欲しいあまり、ネフティスは手近にいた男=オシリスに迫ったのだという説です。また、実はセトには生殖能力がなかった=不能だったので、ネフティスに手を出さなかったとも言われています。
イシスとネフティス
オシリスの妻である姉イシスとオシリスに横恋慕する妹ネフティス。これだけ見ると二人の間にはオシリスを巡って嫉妬や憎悪が渦巻いているのでは?と想像してしまいますが、この二人、オシリス復活のために協力関係を結んだのです。
セトのオシリス殺害については、何度か紹介してきましたが、オシリスの遺体がセトの手でバラバラにされ、エジプト中にばら撒かれたとき、イシスは国中を探し回りましたが、ネフティスもこれに手を貸したのです。
ネフティスはその名が示唆しているように、姉イシスと共に恋い慕った王オシリスに仕え続けたとも考えられます。
彼女はオシリス復活に協力したので、イシスとともに死者を守り、復活を手助けする葬送の女神になりました。
と言っても、ネフティスの祭儀は多くがイシスとセットで行われていますし、エジプト神話においてもオシリスのエピソード以外には登場することはありません。それから判断して、ネフティスという存在はオシリスの妻イシスに対するものとしてセトの妻として創作されたとも言われています。
エンタメ世界のネフティス
少女マンガ『イシス』山岸凉子
この漫画のネフティスは気の良い美女。と言えば言葉は良いのですが、要は単なる“享楽主義者”とも言い換えられます。異性に迫られると後を考えることなく、オシリスとも関係を結び(しかもオシリスとイシスの婚礼の日!)翌日のセトとの婚礼にも嬉々として臨み、愛欲に耽るネフティス。美人で愛嬌もあり、ニコニコしているから男は彼女を放ってはおかないのです。アルビノという外見から、慕うオシリスに疎まれ、愛されずに涙を流すイシスとは対照的です。
ネフティスの不義を知り、セトはオシリスに毒薬を飲ませ殺します。しかし、母ヌト譲りの呪力を持ったイシスが若さと引き換えにオシリスを救います。セトは再びネフティスを脅迫し、オシリスを眠らせると惨殺してしまいました。
バラバラにされたオシリスをイシスは再び生き返らせようとします。良心のとがめを感じてやってきたネフティスは、ウジがわいたバラバラの遺体に抱きつき、精気を吹き込むイシスの姿に恐怖します。ネフティスの行動を怪しんで尾行してきたセトの後見人を捕らえたイシスは、彼の命と自分の若さと引き換えにオシリスを再び蘇生させました。そして冥府に行こうとする夫を引き留め「あなたの子どもを残して!」と絶叫し、恐怖で立ちすくんでいたネフティスをオシリスの棺の中に追い込んでしまいます。半ば意識を失いながらも、ネフティスの肉体を求めるオシリスと人形のように受け入れるネフティス。復活したとは言え死人と強制的に交わらせられたことにより、彼女は正気を失います。それでもイシスの執念が勝ち、ネフティスはオシリスとの子=ホルスを産んだのでした。
この漫画の中では、セトの追っ手からホルスを守るため、イシスはオシリスの後見人トト達とネフティスの手を引いてフェニキアまで逃げます。正気を失い、ヘラヘラ笑っているだけのネフティス。それでもホルスへの授乳は忘れないのでした。
ネフティスの最後がどうだったか、山岸凉子は描いていません。逃亡の最中、オシリスやセトとの恋愛を思いながら亡くなったのではないかと想像します。
ネフティス|オシリス復活に関わった葬送の女神 まとめ
イシスに比べると影の薄い妹ですが、オシリスとセトの間に置いてみると俄然存在感が強くなるのがネフティスと思われます。呪力があるイシスは魔術師としての顔も持っていたので、女神のイメージが感じられるのですが、ネフティスには神と言うより、女性の方が強く感じられます。
オシリスとの間にアヌビスを産んだというエピソードからも想像出来るように、ネフティスは本能に生きる女だったのではないかと感じます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。