蛇の魔族ナーガの中でも特に力が強いとされ、王(ナーガラージャ)と呼ばれることもあるムチャリンダ。
ナーガはガルーダの宿敵ですが、ムチャリンダは仏陀を守ったとされ、深く信仰されています。
忌み嫌われることの多いナーガの一人がなぜ仏陀を守ったのか、紹介していきましょう。
仏陀とムチャリンダ
インド神話では仏陀は三大神の一人ヴィシュヌの化身とされています。
ある日、仏陀がムチャリンダの住処である池のほとりの菩提樹の下で瞑想に入ったそうです。
力の強いナーガであるムチャリンダは仏陀を見るとすぐに「この方はとても尊い存在に違いない」と理解し、この尊い人物=仏陀の瞑想を静かに見守ることにしました。
この発想からしてナーガ一族とは全然違いますよね。
ガルーダの母親を卑怯な手で騙したというイメージがあるナーガの一人が、瞑想中の言わば無防備な人物を見守るなんていうのは、まるで別世界の存在のようにも感じてしまいます。
さて、じっと仏陀を見守っていたムチャリンダでしたが、やがて天気が変わり、激しい暴風雨が仏陀に襲いかかります。
「これは大変!」とばかりムチャリンダは、自分の身体を仏陀の周囲に7回巻きつけ、頭を傘のように頭上に広げて(ムチャリンダはナーガで、コブラと言われています)仏陀をかばったのでした。
しかも「何事もこの尊いお方の邪魔にならないように」と7日間祈ったそうです。
嵐が治まるとムチャリンダは仏陀に巻きつけていた身体をほどきました。
守ってもらったのはいいけれど、巨大な蛇に巻き付かれた仏陀は苦しくなかったのかな、なんて邪推してしまいますね。
ムチャリンダは人間の姿になり仏陀に帰依しました。
この人間の姿のムチャリンダは“7回巻きの藍”と呼ばれるそうです。
仏陀はムチャリンダに守られた修行の結果、悟りを開いたと言われます。
そして「命あるものには怒らず、仏の教えをよく聞き、自らの欲望を遠ざけることにより、安らぎを得ることができる」という教えを広めるために旅だったとされます。
ムチャリンダのおかげで仏陀が悟りを開いた-という顛末になっているのは、やはりインド神話が仏教を飲み込もうとした証なのかも知れません。
ムチャリンダが仏陀を守る姿は、多くの仏画に描かれたり、彫像にもなっています。
東南アジアでは巨大な蛇=ムチャリンダが巻いたとぐろの上に仏陀が座り、その上からコブラのような頭が傘のように覆い被さって仏陀を庇護しているかのような仏像も多数作られました。
ナーガの特徴である複数の頭をムチャリンダも持っていて、5つだったり7つだったりしますが、コブラのような巨大な頭を1つだけ持っている姿で表現されたものもあります。
日本でも龍王として多くの絵が描かれていますが、中でも京都の妙心寺にある狩野探幽の絵が有名です。
エンタメ世界のムチャリンダ
漫画『聖☆おにいさん』中村光原作。
仏陀とイエスが日本の立川でバカンスを楽しんでいるというコメディですが、ここにムチリンダという名前で登場するそうです。
雨が降りそうになると出現し、仏陀を守ろうとする大きな蛇です。
原典に忠実なキャラですね。この漫画はアニメや実写ドラマでも話題になりました。
漫画『はるかなるレムリアより』高階良子原作。
ナーガの章でも紹介しましたが、ヒロイン=アムリタデヴィを守る美青年は龍王ナーガラージャの転生した姿でした。
彼の性格はナーガというより、この章のムチャリンダに近いものがあると思います。
ムチャリンダ|仏陀に帰依した蛇の王(ナーガラージャ) まとめ
名前が軽いとかふざけていると思われてしまいますが、実は誠実なムチャリンダ。
ずる賢いナーガ一族とは思えないほど清廉な神様です。
どうしてこのムチャリンダだけが突然変異みたいな性格になったのか、不思議ですね。
あるいは、ナーガ一族は全員敵というわけではなく、神々に従う者もいるという証拠としてムチャリンダを作りだしたのでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。