
ラグナログでアース親族と巨人族の神々が対決し、双方死に絶えます。
結果だけ見るとアース親族と巨人族は不倶戴天の敵だったようですが、巨人族の中にもアース親族に味方する神がいました。
今回紹介するミーミルもその一人です。
オーディンの懐刀?
種族: 巨人族/アース神族
地域: ミーミルの泉
別名: 知恵の巨人など
アースガルドを含む9つの世界を貫く世界樹ユグドラシル。
そこには3本の根があり、1本の根元には、巨人ミーミルが番人をしている【知恵の泉】があります。
もともとミーミルは巨人族の神でした。
それがアース親族とヴァン親族の戦争が起こり、和平交渉の人質としてヴァン親族の元に送られたのです。
ところが、後ほど説明するように誤解がありミーミルは首を斬られましたが、オーディンの治療のおかげで復活しました。
ミーミルが番をしている泉は【ミーミルの泉】とも呼ばれていて、ミーミル自身もこの泉の水から深い知識と知恵を得ていたそうです。
オーディンの右目
ミーミルは別名【知恵の巨人】にふさわしく、豊富な知識と知恵を持っていました。
知識と知恵はミーミルの泉を飲むことで得られたと言います。
だれもが、この泉の水を求めましたが簡単に飲むことはできなかったのです。
最高神オーディンでさえ、右目という犠牲と引き換えに泉の水を飲むことができたのでした。
首だけの知恵者
『王のサガ』の中の一章『ヘイムスクリングラ』においてはミーミルはアース親族と言われていますが、首だけの姿になった理由は、アース神族とヴァン神族の長期に渡った戦争が原因でした。
この二つの神族は世界初の戦争を始めましたが、あまりに長い時間戦っていたので、徐々に倦み始め、疲弊したため、ようやく和平を結ぶことになりました。
この和平の証(人質)として、アース神族からはヘーニルとミーミルが名指しされ、ヴァン神族からは航海の神ニョルズ、その子どもである豊穣の神フレイ、愛と美の女神フレイヤが名指しされ、それぞれ交換することになったのです。
ヴァン神族のもとに送られたヘーニルとミーミルでしたが、ヘーニルは背の高い美青年でした。
綺麗なものが好きなのは人間でも神でも同様だったようで、ヴァン神族の間でヘーニルは人気の神となっていきました。
しかし、美形で性格も良く、有能だったオーディンの息子バルドルとは全くことなり、へーニルは【顔だけが取り柄】で浅はかな能なしの神だったのです。
自分がわからないことは全てミーミルに頼っていたのでした。
やがてヘーニルの本性がわかってくるとヴァン親族は不快に思うようになったようです。
「アース親族がヘーニルを寄こしたのは、彼が全然役に立たない邪魔者だったからだ」と判断したのでしょう、なんと怒りの矛先をヘーニルではなくミーミルに向けたのです。
本人に向けろよ、と思いますよね。
どういう発想なのかわかりませんが、ヴァン親族はヘーニル本人ではなく、なぜかミーミルの首を切ってしまったのでした。
しかし、知識の豊富なミーミルを失うことは、アース神族には非常に惜しいことだろうし、悔しいだろうと考え、ヴァン神族はミーミルの首をアース神族へ送り返しました。
知恵者の首を送り返されたアース親族やオーディンはさぞ驚いたことでしょう。
しかし、一時の衝撃から目が覚めたオーディンは、ミーミルの頭脳を失うことを惜しいと思い、その首に薬草を塗り込んで、魔法をかけました。
この治療(?)によってミーミルの首だけは生き返ったのです。
ミーミルの泉

ミーミルの泉 出典:ウィキペディア
首だけの姿になったミーミル。
9つの世界を貫く世界樹ユグドラシルを支える3本の根のうちの1本、巨人の国ヨトゥンヘイムに伸びている根元に広がる知恵の泉の番人になりました。
この泉が後に【ミーミルの泉】と呼ばれるようになったのです。
『古エッダ』の「巫女の予言」によると、ミーミルは毎日この泉の水を飲んで、自らの知恵を一層深めていったそうです。
最高神オーディンはある時旅人に扮して世界中を旅していました。
予言されているラグナロクに備えて、世界を救う方法を探し求めていたオーディンは、あらゆる知恵を得られるというミーミルの泉を訪れることにしました。
しかし泉の行く途中、巨人のヴァフスルーズニルから「泉の水を飲みたければ、右目を差しださなければならない」ということを知らされたのです。
オーディンは右目という大きな代償を知り、ひどく悩みました。
いくらすばらしい知恵が得られるとは言え、右目を失うのは非常に怖ろしいことだったのです。
神が代償を払うという点でも、北欧神話の底暗い雰囲気が感じられるかと思います。
右目を失うことに脅えるオーディンでしたが、世界中を歩くうち、ラグナロクでは敵になるという炎の巨人ムスッペルの長スルトに会ったのです。
また、極寒の国ニヴルヘイムでは、冥界の死者の血で溢れているというフヴェルゲルミルの泉から響いてくる禍々しく唸るような音も耳にしたのでした。
アースガルドを含む9つの世界に近づく危機を感じたオーディンは、知恵を得て対抗策を講じなければならないと改めて痛感し、右目を差し出す(犠牲にする)ことを決意したのでした。
オーディンの右目とラグナログ

オーディンの右目 出典:ウィキペディア
遂にミーミルの泉にたどりついたオーディン。
旅人の姿ではありましたが、ミーミルはすぐにこの旅人が最高神オーディンと悟りました。
オーディンは「泉の水を飲ませて欲しい」と頼んだのですが、やはりミーミルは承諾しませんでした。
巨人ヴァフスルーズニルの言葉通り「泉の水を飲みたいのなら、右目と交換です」と言ったのです。
オーディンは非常な意志の強さでその条件を飲みました。
ミーミルは大きな角の盃に泉の水をたっぷり汲んでオーディンに差し出しました。
『新エッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」によれば、ミーミルが差し出した角の盃はヘイムダルがラグナロクを知らせる角笛、ギャラルホルンだったそうです。
ラグナログに備えるために飲む水を湛えるのが、ラグナログの始まりを伝える道具というのは皮肉と言うべきでしょうか。
水を飲んだ途端、あらゆる知恵が洪水のようにオーディンの頭に流れ込んできたと言います。
これにより、自分が知識と知恵を得たことを自覚したオーディンは、約束どおり右目をえぐり取って、ミーミルに差しだしました。
ミーミルはオーディンの右目を泉の奥深くに沈めたと言います。
右目と引き換えに知恵を得たオーディンは、世界の未来を見ることができるようになりました。
北欧神話では終末が予言されています。
オーディンが知恵で見た未来の結末はとても悲惨なものでした。
しかし、一縷の希望を見い出したオーディンは、泉から得た知恵と知識を利用してラグナロクに臨むのでした。
オーディンの件でもおわかりのように、旅人に知恵を授ける存在であるミーミルは、漫画やゲームなどでも主人公を導く存在、あるいはアイテムなどに名前がつけられることがあるようです。
ミーミル~最高神オーディンの右目がない理由と知恵の泉の番人~ まとめ
ラグナログが始まるとオーディンはミーミルに相談し、巨人族相手の戦略を練ったそうです。
しかし、予言の通りアースガルドの神々は数人を残して滅びました。
ミーミルがラグナログを生き延びたのかは記されていません。
終わりがわかっている破滅にはいかに豊富な知恵であっても対処はできなかったでしょう。
首のミーミルは嘆き半分、悟り半分だったのではないかと考えます。

最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。