あまり聞き慣れない名前ですが、アースガルドの力持ち雷神トールと因縁のある巨人です。
後から思えば、彼があの時余計な手出しをしなかったらラグナログの展開も変わっていたかも知れません。
ヒュミル
種族: 巨人族
地域: エーリヴァーガル(ヨトゥンヘイム)
巨人族の一人で、ヨトゥンヘイムのエーリヴァーガル川付近に住んでいます。
トールへのムダな嫉妬心
原初の巨人ユミルについては以前紹介しました。
彼が誕生したのがエーリヴァーガルという毒の川とも言われています。
その毒の川の東には館があり、そこに住んでいたのがヒュミルです。
彼は睨むだけで、物を破壊してしまうという能力のある老巨人でした。
アースガルドの雷神トールはある時、宴で飲む麦酒を入れる鍋を探していました。
酒なのに鍋?と思いますが、これは酒を作る鍋だったんですね。
雷神トールは、巨人ヒュミルの元を訪ねます。
彼が大きな麦酒を醸造できる鍋を持っていると聞いたからです。
ヒュミルはこのトールがやって来たのをあまり歓迎はしませんでしたが、社交辞令だったのか、夕飯に招いて、おもてなししました。
トールは遠慮なくたらふく飲み食いし、なんと牛を2頭もたいらげたのです。
その食欲のすごさにヒュミルの妻は逆にトールが気に入ったそうです。
筋肉隆々のマッチョが子どものような食欲を見せる…母性本能がくすぐられたのかも知れませんね。
釣り対決
そんな雷神の旺盛な食欲に、ヒュミル家ではふるまうものが無くなってしまったので、元々漁をしていたヒュミルは海へ出かけることにします。
責任を感じたのか、トールも一緒に行って漁をすると言い出したので、二人揃って船に乗って釣りを始めました。
するとヒュミルの釣り竿には鯨がかかったのです。
見事に鯨を釣り上げたヒュミル。
アースガルドの神々より良い物を手に入れたとばかり、ドヤ顔をしたのかも知れません。
対するトールも負けず嫌いですから、野生の牛を捕まえ、その首をエサに釣り竿を海に投げました。
やがて、当たりが来ます。
それは恐ろしいほどの衝撃で二人の船を揺らしたのです。
衝撃が大きかったのも当然。
トールが釣り上げようとしたのはなんと、ヨルムンガンドでした。
世界を取り囲んでいる巨大な蛇です。
よほど丈夫な釣り糸だったんでしょうね。
トールはヨルムンガンドを釣り上げる気満々でしたが、ヒュミルはそう行きません。
ヨルムンガンドの姿にびびったのか、トールの釣り糸を切ってしまったのです。
海に姿を消す大蛇にトールは愛用の大槌ミョルニルを投げましたが、致命傷を与えることはできませんでした。
鯨とヨルムンガンド、自分とトールの得物の差は大きすぎました。
ヒュミルはますます機嫌が悪くなっていったのです。
魔法のコップ
ヒュミルの家に帰ってからも、トールはヨルムンガンドを釣り上げようとした自慢話を彼の妻にとうとうと語るのでした。
どうしてもトールに一泡吹かせないと気が済まないとまで思ったヒュミルは、一計を案じました。
「力自慢のトール、おまえの目の前のコップを割ることはできるかい?」
ガラスのコップを割ってみろとそそのかしたのです。
簡単なことと思ったトールでしたが、このコップは割れない魔法のコップだったので、トールが力任せに叩きつけても、蹴飛ばしても割ることができなかったのです。
「なんだ、雷神トールでも割れないんだな」とあざ笑うヒュミル。
悔しがるトールですが、どうしても割れません。
そこへ思わぬ助け船が現れました。
トールを気に入ったヒュミルの妻が、こっそりと「コップはヒュミルの頭に投げればいいのです」とアドバイスしてしまったのです。
トールはアドバイスに従って、ヒュミルの頭めがけて勢いよくコップを投げつけました。
コップはあっさりと割れたのです。
観念したヒュミルは麦酒を作る大鍋をトールに与えて、とっとと帰らせることにします。
帰り道
トールは目的が叶って安心して、大鍋を持ち上げ、ヒュミルの元から離れたのですが、やはり怒りが収まらなかったのでしょう。
ヒュミルは仲間を集めてトールを追いかけてきたのです。
しかし、魔法がなければトールの力の方がずっと強いわけですから、ヒュミル達は返り討ちにあってこてんぱんにやられてしまいました。
ムダなライバル心を出さなければ悔しい思いをすることがなかったでしょうに。
その後のヒュミル夫妻の仲も気になるところです。
エンタメ世界のヒュミル
ヒュミルは髭につららが下がっていたとも言われています。
霜の巨人の一族だったのかも知れません。
氷の力を持つキャラクター設定が多いようですが、トールに敗れてしまったのですから、そのパワーは高いとは言えないようですね。
むしろやられ役的存在なのではないかと思われます。
ヒュミル~睨むだけで物を破壊する能力をもつ巨人の嫉妬心~ まとめ
ラグナログでトールとヨルムンガンドは因縁の対決をします。
結果は相討ちでした。
ヒュミルが釣り糸を切らずにいて、トールが大蛇を陸上に上げていたら…その場でヨルムンガンドは死んでいたし、ラグナログでの神々の生死も変わっていたでしょう。
筆者などは「ヒュミルめ、余計なことをして」と思うのですが、ヒュミルの行動も北欧神話では前もって決められていたことなのでしょうね。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。