世界の各地域に神話があり、それぞれに特徴ある神々が存在しています。
オーディンを頂点とする北欧神話の神々も、北欧という地域、気候にふさわしい性格と行動パターンを持った神々です。
二つの神族~アース神族とヴァン神族
北欧神話に登場する神々は2つのグループに分けられます。
一つは最高神オーディンを中心とし、アースガルドに住む【アース神族】で、どちらかと言うと祭祀や魔術、法律、知識、戦闘などを司る神が多かったのです。
その姿は人間とほぼ変わらないスタイルで、女神イズンが管理している若返りのリンゴを口にしているおかげで、歳を取らず、いつまでも若々しい姿と思われています。
と言っても、死なないというわけではなく、ケガをすることもあれば、オーディンの息子【貴公子】バルドルのように命を落とすこともありました。
一方、豊穣の神フレイ、愛と美の女神フレイヤなどが代表とされる【ヴァン神族】は、アース神族以前から存在していたと言われ、豊穣や富、愛欲を司る神々とされています。
【ヴァン】という言葉には【光り輝くもの】という意味があり、ヴァン神族は未来予知の能力を持っていたようです。
中でも得意としたのは、以前紹介した【セイズ魔術】で、魂を操り、未来予知ができる魔法だったと言われています。
しかし、アース神族と異なり、ヴァン神族は北欧神話のエピソードにはほとんど登場することがなく、フレイとフレイヤ、その父である航海の神ニョルズなどについては恋愛がらみでのエピソードがあるので知名度も高いと思われますが、この3神以外のヴァン神族の名前やその生活については詳細は全くと言って良いほど不明です。
“戦闘のアース神族”と“豊穣のヴァン神族”と呼ばれた2グループの神々は一時期、敵対関係にありました。
その理由を少し紹介しましょう。
アース神族がアースガルドに住み始めた頃、世界は財宝や黄金で溢れ、明るく華やかな生活を送ることができました。
ところが、一人の魔女グルヴェイグがアースガルドにやって来たことで神々の穏やかで明るい生活は一変してしまったのです。
グルヴェイグはお得意の魔術を使い、神々の黄金に対する貪欲な心を掻き立てました。
自分たちの心の奥底を暴かれたアース神族達は次第に輝く黄金を求めるあまり、諍いが起こるなど、とげとげしい空気が漂い始め、アースガルドも徐々に荒廃の色を見せるようになったのです。
さすがのオーディンもこれではいかんと思ったのか、元凶である魔女グルヴェイグを捕らえ尋問しました。
そこでグルヴェイグがヴァン神族だと判明したため、「ヴァン神族がアースガルドへの尖兵としてグルヴェイグを送り込んだ。
ヴァン神族はアースガルドへ侵攻しようとしている」と判断し、アース神族はヴァン神族の領土に攻め込んだのでした。
開戦前にアース神族はグルヴェイグを処刑しています。
なかなか死なないので息の根を止めるにも大変苦労したというエピソードがあります。
これが世界初の戦争と言われています。
この戦いはうんざりするほど長い時間続きましたが、決着がつきません。
疲弊しきった両者は交渉の結果、アース神族からは容姿の優れたヘーニルと知恵者のミーミル、ヴァン神族からはニョルズとその子どもたちを人質として交換するという条件で、和解したのでした。
そもそもの戦の理由については、領土拡大の欲望に取り憑かれたオーディンの画策だとも、グルヴェイグを処刑したことにヴァン神族が怒ったためだとも言われています。
しかし、この戦争が何とか終結してからは2グループの神族は持ちつ持たれつの相互関係を築いていきました。
不完全なところが魅力?
神と言ったら、ギリシャ神話のゼウスのように世界のあらゆるものを凌駕する全知全能という存在を想像するかも知れません。
しかし、北欧神話の神々は最高神オーディンでさえ、最終戦争ラグナロクを止めることはできませんでした。
また彼らが愛用する武器や、魔法に使用する品々も自分達が作ったものではなく、小人族をだまして作らせたものだったりして、何でもできる万能の存在ではなかったのです。
もう一つの注目点は己の欲望には忠実なことでしょう。
自分の欲しいモノを手に入れるためには、平然と裏切りや色仕掛けを行い、場合によっては無益としか思えない殺戮さえも厭わないのです。
例えば、アースガルドの城壁を作ってくれた巨人との約束を反故にして、報酬をはらうどころか、命を奪ったり、美の女神フレイヤがすばらしい首飾りを手に入れるために小人達と不倫までしたなど、サンプルには事欠かない有様です。
対照的に、王道な恋愛や道徳的な物語はほぼ見られない、というよりほとんど無いというのも、北欧神話の特徴ではないでしょうか。
神々のグループとその性格~自由奔放で我が強く個性的な神族たち~ まとめ
北欧神話とは神々が欲しいモノを強引に手に入れる話と断言しても良いと思います。
欲望まみれの美しくはない話ばかりですが、不思議なことに嫌悪感は少なく、むしろユーモア(ブラック?)に溢れたそれはそれで魅力のある話と感じられます。
いっそすがすがしいほど本能のままに生きる神々は、人間よりも人間らしいと思われ、そんな彼らの生きざまに、ほんのちょっと憧れを感じてしまうからかも知れませんね。
そしてどんなに好き勝手なことをして欲望を満たしても、終わりがわかっているという無常観も人間に近いものを感じてしまう一因かと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。