北欧神話の中で一番手先が器用なのは小人族です。
今回紹介するブロックとシンドリはその中でも特に優れた職人として知られていたと言います。
ただし、その腕の良さが彼らにとって幸せだったのかは別問題なんですよね。
トール愛用の大槌を作った小人
種族: 小人族
地域: 地底にある洞窟
別名: エイトリはシンドリとも呼ばれる
ブロックとエイトリは小人族の兄弟です。
この二人は地底にあるという小人族の国に住み、その中でも洞窟の中でひっそりと暮らしていたようです。
工作などが得意な小人族の中でも、この二人はとりわけ手先が器用でした。
イーヴァルディという小人の息子たちが作り、アースガルドの神々の持ち物となった宝物にはシヴの黄金の髪、巨大帆船スキーズブラズニル、オーディンの槍グングニルなどがありますが、それに負けないほどの優れもの、貴公子バルドルの黄金の腕輪ドラウプニル、トール愛用の大槌ミョルニル、黄金の毛を持つイノシシなどを作りあげました。
では、二人の作った芸術作品(?)を紹介しますね。
ミョルニル
言わずと知れた雷神トール愛用の大槌。
作っている途中でロキが邪魔をしたので、持ち手が予定より短くなってしまったそうです。
グリンブルスティ
世界のどこであっても、馬よりも速く駆けるイノシシで、体は光り輝いていました。
その姿にふさわしく、美形で知られた豊穣の神フレイの宝物の一つでした。
ドラウプニル
9夜毎に同じ腕輪が8つ生み出されるという無限に増える黄金の腕輪です。
もともとはオーディンの所有でしたが、息子バルドルに譲り、彼の持ち物となりました。
バルドルが級に亡くなったとき、棺に入れて一緒に焼かれたと言います。
一説には、フレイが巨人族の娘ゲルズに求愛したとき、「結婚したくれたらドラウプニルを贈ろう」と約束したとも言われています。
でも、この腕輪ってフレイの物ではないんですよね。
口約束でごまかす気だったのか、スキールニル(フレイの従者)?
ロキの挑発
オーディンを始め、神々は色々な武器や宝物を身につけていますが、その多くは鍛冶能力や細工に長けた小人族が作ったものでした。
ある日、ロキが小人族の国を訪れます。
ほんのいたずら心から悪友でもある雷神トールの妻シヴの髪を切ってしまいトール達から責められたロキは、弁償するため小人のイーヴァルディの息子を訪ねたのです。
そして言葉巧みに騙し、黄金の鬘、折りたたみ式の巨船スキーズブラズニル、魔槍グングニルを作らせたのでした。
【喉元過ぎれば熱さを忘れる】の心境だったのか、最初から企んでいたのか、ロキはこれらの宝物を自慢し、見せびらかし、あげくには「こんなにすばらしい物が作れるのは小人族の中でもイーヴァルディの息子達だけだ。他の者には作れっこない」と言い放ったのです。
これを聞いたブロックとエイトリ兄弟は怒り、「自分達なら、そんなものよりもっともっとすばらしい物を作ってみせる」と名乗り出たのでした。
こうしてロキの挑発に乗った兄弟は自分たちの工房にこもり、作業をスタートしたのでした。
狙いはロキの首
兄弟が報酬として申し出たのはなんとロキの首でした。
ロキも引っ込みがつかなくなったのか「それでいいだろう」と納得さぜるを得なかったのです。
さて、もともととても器用な兄弟ですから、鍛冶場では順調に仕事が捗りました。
その様子に大慌てとなったのはロキです。
なにせ、自分の首がかかっていますから、うかうかしてはいられませんね。
アブに変身したロキは兄弟の手や顔を刺すなどして、仕事の邪魔をします。
しかし、職人魂と言うべきか、兄弟はその妨害をものともせず、遂にすばらしいアイテムを3つも完成させたのでした。
黄金の毛並みのイノシシ=グリンブルスティ、大槌ミョルニル、8個の黄金の腕輪が9夜目毎に生まれ出る黄金の腕輪ドラウプニルの3つです。
ブロック・シンドリ兄弟はそれぞれを豊穣の神フレイ、雷神トール、そして最高神オーディンに献上しました。
オーディン達はすばらしい出来に感心し、兄弟の勝利を宣言します。
首がアブナイ-窮地に立ったロキですが、さすがは悪知恵が働きます。
「確かに俺の首はやってもいい。だが、刀が首に触れてはならんぞ」と無理な要求を持ちかけたのです。
首に触らずに首を落とすことはできません。
兄弟は歯ぎしりしましたが、ロキの首を諦めなければなりませんでした。
このあたりのやりとりはシェークスピアの『ベニスの商人』と似たようなオチですね。
エンタメ世界のブロック・エイトリ兄弟
二人が作ったアイテムの中でゲームなどでよく使用されるのが【無限に増え続ける黄金の腕輪ドラウプニル】です。
この名前には【滴るもの】という意味があるそうで、北欧世界を題材としたファンタジー作品ではアイテムとして登場することが多いのです。
その理由として、古代北欧世界では権力者が部下に報賞として黄金の腕輪を与える習慣があったので、それにちなむようです。
また配下にどれだけ多くの腕輪を与えることができるのかが、王の力量や権力を測るバロメーターとされていたことも一因でしょう。
ブロックとエイトリ~ミョルニル、ドラウプニルを造った小人の職人~ まとめ
ロキに一杯食わされたブロック・エイトリ兄弟。
やはり職人気質で、世間知らずな兄弟が邪神ロキと渡り合うのは無理があったのかも知れません。
それにしても、ロキの言い分に対し、オーディン達は何も助け船を出してくれなかったのでしょうか?
すばらしいアイテムをもらったお礼に何か返礼があってもいいのに…と思いますね。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。