アスラとは魔神や魔族の総称、種族名であり、インド神話の神々と対立する者達です。
【スラ=神】で【アスラ=神でないもの、神の敵】を意味するそうです。
強大な力を持つアスラ達は、神々と戦い、何度も危機に陥れていたと言いますから、かなりの能力を持っていた種族だったのでしょう。
アスラとは?
アスラは仏教に取り入れられると八部衆の一人阿修羅とされました。
アスラとアシュラ、音も似てますよね。
日本では奈良県の興福寺の阿修羅像が有名です。
少年にも見えるが少女にも見えるという性別不詳なミステリアスなところが人気の理由と言われています。
また興福寺以前に建立された法隆寺にも阿修羅像がありますが、この像が興福寺のモデルになったとも言われています。
阿修羅はもともと好戦的な神だったことから、【戦いの神】とされています。
“修羅場”という単語はご存じかと思いますが、この阿修羅に由来した言葉なのです。
もともとは阿修羅と帝釈天(仏語のインドラ)が戦った場所を指したと言われています。
これから転じて、諍いの絶えない場面、悲惨な状況のことを修羅場と呼ぶようになったそうです。
仏教由来の阿修羅について詳しくは下記の記事を参考にしてください。
⇒ 阿修羅~修羅場の語源となった悲しき三面六臂の鬼神~
さて、悪のイメージの強いアスラですが、その出生は神々とともに創造神プラジャーパティ(宇宙万物の創造神)から誕生したとされています。
ちなみにプラジャーパティとはブラフマーが作り出した10人の神(7人、8人、16人という説も)のことです。
このプラジャーパティは【虚偽をとるもの】として闇とともにアスラを【真実をとるもの】として天とともに神々を作り出したとされています。
アスラは最初から魔族だったわけではありません。
古代インド時代(ヴェーダ時代=バラモン教)には司法神・天空神ヴァルナや暴風神ルドラのように、不思議な幻術や呪術の力を持つ神と言われています。
なぜアスラが神から魔族になってしまったのかと言いますと、創世神話にある乳海攪拌のときに、他の神々にそそのかされて供えものや生贄を食べてしまったからという説が有力です。
またアーリヤ人によって天界から追い払われて、地底に落ちて魔族となったという説もあるのです。
神々が飲む霊水アムリタは不死になると言われる飲料ですが、アスラはもらっていません。
つまりアスラ達は不死ではないのです。
魔族故にアムリタを飲めないと言うことでしょうか。
アスラという名は【(アムリタを)飲んでいないもの】という意味の【ア・スラ】から来ているという説もあるそうです。
いずれにしても、神々と対立する者と認識されていたのがアスラだったのでしょう。
主なアスラ
アスラ種族には多彩な者がいます。
その中でも有名どころを紹介しましょう。
ヴァルナ、ミトラ、ルドラ
『リグ・ヴェーダ』ではアスラの代表とされています。
ヴァルナは天空神・司法神です。
ミトラはインド神話によると【契約によって結ばれた盟友】の意味で、友情・友愛の守護神とされています。
ルドラは暴風神ですが、インドに吹くモンスーンを神にしたものとされています。
アンダカ
プラーナ文献に登場するアスラ。
名前には暗黒、盲目の者という意味があります。
実はシヴァ神と妻パールヴァティの間の3番目の息子なのですが、子どもがなくて悲しんでいたアスラ族にシヴァが里子に出したのです。
ところが成長したアンダカは父とは知らずシヴァと対決し、倒されました。
プローマン
アスラ神族の一派ダーナヴァ族の神です。
彼には娘シャチー(舎脂)がいて、彼女をインドラに嫁がせたいと考えていました。
ところが噂を聞いたインドラがさっさと彼女を奪ってしまったのです。
結婚させるつもりだったとは言え、頭越しの行為に怒ったプローマンはインドラに戦いを挑みますが、力及ぼす、殺されてしまいました。
ヴリトラ
トヴァシュトリの章でも紹介しましたが、叙事詩やプラーナ文献等によるとアスラの長とされる者です。
トヴァシュトリが作り出したのですが、インドラに倒されました。
マヒシャ
苦行により“女以外に殺せない”力を得たと言われるアスラの王です。
一説ではこの力はブラフマーから授かったとも言います。
人々を迫害し、苦しめたため、怒った神々は女神ドゥルガーを生み、彼と戦わせました。
マハーバリ
プラーナ文献に登場するヴィローシャナの息子。
ヴィローシャナは真理を求めてインドラとともに創造神プラジャーパティの元で苦行に励みました。
しかし、会得したと思い立ち去ったヴィローシャナはまだ真理を会得していなかったのです。
ヴィローシャナはインドラとの戦いで殺されたと言います。
マハーバリはヴィローシャナの息子で、天界に軍を進め、父の仇であるインドラを含めたデーヴァ親族を追い払ったと言われます。
公正で献身的な王と言われ、アスラなのに善良な王と呼ばれています。
ラーフ(ケートゥ)
4本の腕と1本の尾を持つアスラで、乳海攪拌の際、神々を騙してアムリタを口にしたためで不死になったアスラです。
日食と月食が起こるのは、アムリタを飲んだことを神々に告げ口されたことを逆恨みしたケーフが太陽と月をかじるためと言われています。
エンタメ世界のアスラ
現在も主に悪魔をさす言葉として、アニメやゲームなど多数の作品で使用されています。
アスラ族という意味ではなく、ただ単一のアスラというキャラとしても登場することが多いのも、その知名度のせいでしょう。
テレビアニメ『天空戦記シュラト』
主人公のシュラトはデーヴァ族の八部衆の一人修羅王だったのですが、ラスボスとして登場したのがアスラ族のシヴァでした。
人の心の弱さにつけ込み、闇に堕としていく…まさに魔という表現の似合う設定になっていました。
アスラと戦う主人公が修羅王シュラトというのは、よく考えると変な感じですよね。
アニメで描ききれなかった裏設定には、実はデーヴァもアスラも元々は同じ種族だったが、アスラ達は己の心の弱さから魔に落ちてしまったのだ…という内容があると聞きました。
なかなか複雑なものがありますね。
このシュラト役は当時“元気でやんちゃな少年キャラ”で人気のあった関俊彦が演じました。
女神転生シリーズのアスラ
初出はFC『女神転生』ですが、このころの種族は邪神で、読みが【アシュラ】。
銀座の鈴木カンパニーの地下に広がるダンジョンで主人公の行く手を阻むが、ルシファーのよびかけによって本来の姿である魔神アフラマズダの姿に戻ります。
ちなみにイランのゾロアスター教ではアスラはアフラ・マズタと同一視されています。
後の『真・女神転生』シリーズでも、天魔アスラおうがヴィローシャナ(大日如来)と同一視されるなど、アスラはシリーズにおいて代々初期作品の系譜をたどっています。
なお『真・女神転生Ⅱ』ではケセドの仏殿を守る『ヴィローシャナ』として登場し、また『アスラおう』を崇拝するガイア教の暴走族『アシュラ』が登場しています。
マンガ『聖伝』 CLAMP原作
この漫画の主人公阿修羅は5歳ぐらいの幼い姿で、性別はありません。
自分をかばったために一族を皆殺しにされた夜叉王と共に、自分の命を狙う帝釈天を倒す仲間を集める旅をします。
幼い姿の阿修羅は素直でかわいいのですが、本性は戦神にふさわしく己の思いのままに暴力を振るうのでした。
自分の母親が父である先代阿修羅王を裏切り、帝釈天の元に走ったことが阿修羅族滅亡の引き金になったことを知り、母をその手で殺します。
身勝手で己の欲望に忠実な美しく残酷な母の名前は舎脂でした。
最終話、成長した阿修羅は帝釈天への怒りを爆発させ、一緒に旅した仲間でさえ、遠慮なく攻撃し、倒します。
「これが私の本性」と宣言し、帝釈天を倒したあげく、天界すら滅ばそうとしますが、最後の最後で夜叉王への思いが暴走を止めました。
サンサーラ・ナーガ
インド神話をモチーフにしたRPG「サンサーラ・ナーガ」にはアスラの力を秘めた「アスラの剣士」が登場。
ファミコン版では攻略本に掲載されていた最強の武器「アスラの剣」をドロップすると思われていたが、設定ミスで手に入らなかった。
続編「サンサーラ・ナーガ2」には「アスラの神殿」が登場している。
アスラ|神の敵として最も好戦的な戦いの魔神族 まとめ
アスラは悪魔と位置づけられていますが、決して悪いことだけをする種族ではなかったと思われます。
善良、公正と讃えられるアスラ族もいますし、人間にとってはそんなにひどい種族ではなかったのではないでしょうか?
天界の神デーヴァ族と、地底の魔アスラ族という対比はわかりやすいのですが、単純に正邪は区別できないのではないかと思うのです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。