月の女神アルテミスと言ったら、弓矢を手に森を疾走する乙女のイメージがあります。
同じゼウスの娘と言っても、アテナと違って《永遠の乙女》と感じるのは私だけでしょうか?
実はアルテミス=永遠の乙女というのはあながち間違ってはいないのです。
激しい気性の狩人
ゼウスとレトの娘で、アポロンとは双子の姉アルテミス。
狩猟の神でもあり、野生動物を守護する女神でオリンポス12神の一人でもあります。
美しいお供(ニンフ達)を引き連れて森を駆け、狩りをするのが楽しみというアクティブな女神です。
ただし、そんな体育会系に似合わないなかなかエキセントリックな性格の彼女は、激怒しやすく、自分の意志に反する者や楽しみを邪魔する者には容赦なく罰を与える傾向がありました。
恋愛関係には厳しく、同性である女性達に死をもたらす神とされています。
ローマ神話になると、月の女神ディアナ(ダイアナとも)と同一視されています。
ダイアナは女性の名前にも見受けられますが、月のように麗しい女の子にという願いが込められているのかもと考えてしまいます。そう言えば、女子の永遠のバイブルとも称される『赤毛のアン』の親友(腹心の友)の名前が「ダイアナ」ですね。
銀の弓矢
ベルサイユ宮殿にあるアルテミス像は、鹿を供に弓矢を背負う姿をしています。
その弓矢はアルテミスの武器でした。
女性が急に死んでしまうと「アルテミスの矢に射られたのだ」と言われたそうです。
大熊座と小熊座
アルテミスの従者だったニンフのカリストは美しい女性でした。
彼女の美貌にひかれたゼウスに強引に迫られ、彼女は心ならずも妊娠してしまったのです。
その事実を知ったアルテミスは怒りのあまり、カリストを熊に変えてしまったのです。
出産はしたものの、異形となった母は我が子を抱くこともできませんでした。
やがて成長した息子アルカスは狩りに出かけ、大きな熊と出会います。
息子と知り嬉しさのあまり自分の姿を忘れて近づくカリスト。
そして、獲物が自分の母親とも知らず弓を構えるアルカス。
あわやの瞬間、ゼウスは親子を天に上げ、大熊座と小熊座にしたと言います。
自分のやったことの責任をゼウスなりに果たしたということでしょうか。
月(ムーン)
特に冬の月は冴え冴えとして美しいのですが、その鋭い美しさがアルテミスの潔癖さにつながっているような気がしてなりません。
月光は他の者を拒絶し、ただ己のみ輝いているという超越感を覚えるのは筆者だけでしょうか?
気が狂うという意味のルナテックは言うまでもなく、月に由来しています。
己の掟を守るために容赦なく行動する女神
アルテミスは銀の弓を手にし、ニンフ(精霊)たちをお伴に従え、森を駆け、狩りを楽しむ美しい狩人でもあります。
黄金の弓矢を持ち、青春を謳歌するかのように女性や少年との恋愛を楽しむアポロンとは双子神です。
アルテミスが銀の矢で女たちに死をもたらすと言われているようにアポロンは男たちに死をもたらすと言われていました。
前述したように、彼女の気性は荒々しく、自分の楽しみを邪魔するもの、自分の誇りを辱めようとするものは絶対許しませんでした。
そして狩人アクタイオンの悲劇が起きるのです。
アルテミスが沐浴している姿を偶然見かけてしまったアクタイオン。
あわてて目をそらしたのですが、時既に遅く、感づいたアルテミスは怒りました。
「女神アルテミスの裸を見たと言いふらしてごらん、できるものなら」呪詛が終わらないうちにアクタイオンの姿は牡鹿に変わってしまったのです。
そして彼は自分がかわいがっていた猟犬たちに襲撃され、ずたずたに引き裂かれて死んでしまったのです。
もう一つのエピソードも紹介しますね。
彼女の母レトはアポロンとアルテミス二人しか子どもがいませんでしたが、タンタロスの娘であるニオベには7人の子どもがいました。
彼女は何を思ったのか、「私はレト様より多くの子どもがいる」と子だくさんを自慢したのです。
またまたアルテミスの怒りに触れました。
彼女とアポロンは弓矢でニオベの目の前で子ども7人一人ずつ射殺したのです。
なんとも残酷なことをする女神です。
魔女とも同一視されたアルテミス
そんな残忍な面を持つアルテミスですが、一方では子どもや女たち、弱き者を守護する女神でもあり、特に古代ギリシアの女たちにとっては、出産など女の人生での重要な節目に関わる女神と尊崇されていました。
頑固に処女と純潔を守るアルテミスの性格とは真逆だと思われますが、本来は古代から信仰されていた地母神の一人であったと考えられているのです。
なので、出産や新生児を守護する女神となったのと思われます。
トルコでは【たくさんの乳房を持つアルテミス像】という別名の女神像が発見されています。
これはアルテミスが豊穣=出産の女神でもあったことの証拠ではないかと思われます。
現在、アルテミスといえば月の女神としての印象が強いのですが、これは後世に月の女神セレネ(英語ではルナ)と混同されたためということです。
この女神セレネは後の物語によるとアルテミスと冥界の女神ヘカテとも混合していったとか。
ヘカテはアルテミスの狩りの友でした。
気心の知れた仲だったのでしょう。
女たちに死をもたらすアルテミス、そして強力な魔力を持っていたヘカテ。
二人は密接な関係があると考えられていました。
ローマ神話でアルテミスに該当するディアナは、ヘカテとともに中世になると魔女の指導者と見なされたのです。
アルテミスは知名度もあるので、ゲーム作品や漫画などにも登場します。
当然月と深く関連付けられ、エキセントリックな性格は控えめに、美しくミステリアスな狩人として登場することが多いようです。
アルテミス~残忍な狩猟の神とアルテミスの銀の弓矢~ まとめ
処女故なのか、異常なまでの潔癖症と強烈な自我を持っている女神アルテミス。
現実世界にこういう女子がいたら「君子危うきに近寄らず」とばかり、遠くから眺める男子が何人もいることでしょう。
男女関係を忌み嫌いましたが、原因の一つは父ゼウスの奔放すぎる恋愛関係にあったのではないでしょうか?
カリストの悲劇は完全にゼウスのせいですよね。
実は父親が大好きなので、父に関係した女が憎かった。
そのため男嫌いになってしまったのでは、と思うのです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。