竹取物語を知らない人はいないと思いますが、竹から生まれた美しい異星人かぐや姫が五人の求婚者に要求したものはご存じですか?
まず【龍の首の珠】【仏の御石の鉢】【ツバメの子安貝】【火鼠の皮衣】そして【蓬莱の玉の枝】です。
何れも空想のもので、実在はしていないと思われています。
かぐや姫がありもしないだろう宝物を要求したのは、最初っから求愛に応える気がなかったからでしょう。
もともと異星人の彼女は時が来たら、自分の世界=月に帰るつもりだったのですから。
無茶な要求
昔も今も美人は何を言っても要望が叶えられる…
叶えようとする人間には事欠かないようです(笑)
龍の首の珠
【龍の首の珠】を求められた大伴大納言は船で出航しましたが、どこにいるかもわからない龍(龍って存在してませんよね)を探しているうちに目が腫れ上がり、人目には出られない容貌になってしまったそうです。
仏の御石の鉢
【仏の御石の鉢】を探しに行った石作皇子は大和国の寺にあった石鉢を持ち帰りましたが、かぐや姫にニセモノと看破されました。
この時点でかぐや姫が普通の人間ではないということがわかるかと思うのですが…。
ツバメの子安貝
【ツバメの子安貝】を求めて大炊寮(宮中の仏事や供物の管理をする機関)の屋根に登った中納言石上麻呂は、ツバメが巣から飛び立つ瞬間何かを掴んだのですが、実は単なるツバメの糞でした。
そのショックで寝込んでしまったとも言われています。
火鼠の皮衣
【火鼠の皮衣】を右大臣阿倍御主人は唐の商人から高い代金を払って購入しました。
この皮衣は火にくべても燃えないはずでしたが、かぐや姫があっさりと火桶に投じると簡単に燃え尽きてしまったのでした。
蓬莱の玉の枝
そして【蓬莱の玉の枝】は車持皇子へのリクエストでした。
どんなものかわからないので、金にあかせて豪華な木の枝(根は銀、茎は金、実は真珠)を作ったのです。
もったいぶってかぐや姫に捧げる車持皇子。
さすがのかぐや姫もこれは困ったと思ったでしょう。
ところがその場へ登場したのは木の枝を作らせた職人達。
車持皇子は強行スケジュールで作らせたのはいいが、代金を払っていなかったのです。
これまたニセモノとわかり、ほっとするかぐや姫。
車持皇子は面目丸つぶれの上に財産を失ったそうです。
今回はこの【蓬莱の玉の枝】の『蓬莱』について紹介したいと思います。
道教との関係
『蓬莱』は中国の古代宗教であった道教に登場する仙境のことです。
仙境とは仙人の住むところで、道教は仙人思想が主体ですから、当然のことではありますね。
中国では東方の海上(海中)にあると言われていました。
話はそれますが、日本人が西方楽土というように西に楽園を求めるのに対し、中国は東方に求める傾向があるように感じます。
中国の西方(漢民族の支配範囲以西)はざっくり言って砂漠地帯ですから、どうしても東の海に期待(?)してしまうのかな…とも思います。
ちなみに始皇帝の命を受けて不老不死の薬を探しに来た徐福も東方=日本へ渡ったと言われています。
徐福の場合は始皇帝の命令と言うより、騙して資金を巻き上げたという説もありますが。
彼は鹿児島県いちき串木野市に上陸し、この地の冠嶽の自分の冠を奉納したことが、冠嶽神社の起源と言われています。
日本では蓬莱は浦島伝説に関わりがあったり、富士山とつながりもあったように古文書には出て来ます。
理想郷の伝説として考えられているようです。
古くはヤマトタケルの東征の時、富士山の麓に旧蓬莱宮という史跡があり、そこに立ち寄ったと言われています。
また、蓬莱宮は熊野や熱田神宮などの異名としても知られていますが、そこが富士なのか熊野なのか熱田なのかは不明です。
『渓嵐拾葉集』という比叡山の僧が書いたとされる文献にはこう記されています。
蓬莱宮は熱田の社これなり、楊貴妃は今熱田明神これなり
― 『渓嵐拾葉集』より引用 -
熱田神宮一帯が蓬莱の字をとって「蓬(よもぎ)が島」ともよばれているそうですが、何となく漢方薬のような匂いがしませんか?
仙人になるため、肉を絶ち、ゆったりとした呼吸法を行う…というのを読んだ記憶がありますが、草餅に欠かせないよもぎはお灸の材料でもありますから、蓬莱→道教→仙人→肉絶ち→野菜→漢方→よもぎ と連想するのはちょっと強引でしょうか?(笑)
蓬莱~かぐや姫やヤマトタケルにも関わりが深い中国道教の仙境~ まとめ
【蓬莱】という漢字は中国を連想させるためでしょうか、中華料理店に多く見受けられる名前ですね。
また調べたら日本酒の名前にもかなり多いことがわかりました。
【酒は百薬の長】と言われますから、健康をめざす仙人の飲み物である-ということなのかも知れませんね。
他にもお寺の庭園に蓬莱園と名付けているところがありました。
きっとけばけばしさとは無縁の典雅なお庭なんではないかと思います。
理想郷の姿はいろいろありますが、【蓬莱】については無味無色、でも単調ではない穏やかなものではないかと想像します。
そして、なぜか女性はいないような気がします。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。