マハーバーラタの登場人物の中で人気上位なのがアルジュナですが、今回の主役カルナはある意味、アルジュナ以上に人気のあるキャラクターです。
筆者はアルジュナに影が少ないのが残念と思ったのですが、カルナこそ、屈折した影のあるキャラクターのようです。
カルナ|名槍シャクティと黄金の鎧をまとった太陽の子
マハーバーラタの重要登場人物であるパーンダヴァ(5王子)の母であるクンティーは、若い頃“好きな神の子を産める”というマントラを授かっていたそうです。
彼女は試しに太陽神であるスーリヤを思い、その結果として誕生したのがカルナでした。
しかし、独身だったクンティーはシングルマザーとなることを恐れ、産まれたばかりの子を箱に入れて川に流してしまったのです。
幼子は御者夫婦に拾われ、その子どもとして生きていくことになったのです。
それが彼の悲運の一端となりました。
別名:ヴァスシェーナ、アーディティヤタナヤ
ヴァスシェーナとは【ヴァス=宝物を身につけた者】という意味があるそうです。
というのは、クンティーはスーリヤの子を産む代わりに「私が産む子どもに、あなた様と同じ金の鎧を授けてください」と条件を出したのです。
スーリヤはそれに応え、カルナは体の一部に皮膚のような黄金の鎧と、耳飾りをつけた姿で誕生したそうです。
この鎧がある限り、カルナは不死だったと言われます。
アーディティヤタナヤとは【太陽の子】という意味ですから、まさにカルナが太陽神スーリヤの子である証拠でしょう。
名槍シャクティ
前述のとおり、カルナは産まれながらにして、他の何者にも傷つけられることのない黄金の鎧と耳環を身につけていました。
18日間の同族戦争が始まる前、雷神インドラはクンティーが産んだ自分の子であるアルジュナを勝たせるために、カルナにこの鎧を要求したのです。
驚くカルナでしたが「神の意のままに」と我が身と一体化していた鎧をはぎ取ったのです。
皮膚のようなものですから、カルナは血まみれになったのでしょう。
我が子のためにとは言え、傷ついたカルナを見たインドラは心苦しいと思ったのか、信心に打たれたのか、黄金の鎧の代わりして一撃必殺の名槍シャクティを授けたと言いますが、黄金の鎧と釣り合うものではなかったようです。
何と言っても体の一部だったのですから。神のやることとは言え、インドラもむごいことをすると思いませんか?
身分に苦しめられるカルナ
スータ族の御者アディラタに拾われたカルナはヴァスシェーナと名づけられ、すくすくと成長しました。
この時点では自分の本当の出自を知る由もなかったのです。
御者の息子ではありましたが、優秀だったカルナは成人すると遊学してクル族の軍師ドローナに師事しました。
同時期に王族のパーンダヴァの5王子も入門していたのです。
つまり、知らないうちに異父兄弟達が同窓の仲間になっていたことになります。
カルナはさらに力を求めて、ヴィシュヌの化身であるパラシュラーマの門を叩きました。
実はパラシュラーマはカルナの身分であるクシャトリヤ(王侯・武人階級)を忌み嫌っていたので、彼は「私はバラモンです」と身分を偽り、弟子入りしたのです。
そのウソがばれてパラシュラーマは激怒しました。
破門しただけでなく「おまえに匹敵する敵が現れたとき、奥義を思い出せなくて死ぬだろう」という呪いまでカルナに叩きつけたのです。
そこまでしなくても…と思ってしまいますが、神であるヴィシュヌは未来を見通していたのでしょうから、カルナの悲運は定まっていたのかも知れません。
5王子と同じ人物に師事したカルナでしたが、御者の息子と王子という身分差があったため、実力が伯仲と言われたアルジュナとの試合も許されませんでした。
それどころか、師のドローナは異常なほどアルジュナをひいきするあまり、試合相手のやる気をそぐような言動をみせたとも言われています。
能力があるのに、舞台に上がることすら許されないカルナ。
彼の境遇に同情したのが100王子(カウラヴァ)の長男ドゥリヨーダナでした。
自分も才能ある従兄弟と比べられて不運を託っていたドゥリヨーダナにはカルナの気持ちがよくわかったのでしょう。
ドゥリヨーダナはカルナを擁護し、「身分が低いというなら私が引き立てよう」とアンガ国王の位につけたのでした。
ドゥリヨーダナに深く恩義を感じたカルナ。
何とか恩返しをしたいと熱望し、同族戦争ではカウラヴァ軍の先頭に立って戦うことになるのです。
特にカルナが目の仇として憎んだのが、アルジュナでした。
実力では自分の方が勝っていると自負があったのに、師匠のえこひいきで戦うことすらできなかった悔しさ、無念さもあったでしょう。
しかもアンガ国王即位の式典に姿を見せた養父アディラタを侮辱され、ますます5王子に対する怨念は膨らむばかりだったのです。
それにしても、当時は身分制度が厳格に定められていたから当然の行動ではあったのかも知れませんが、弱い者イジメをしているような5王子達にはがっかりしてしまいますね。
カルナの最期
カルナにとっての恩ある主君ドゥリヨーダナと、実は自分の異父弟だったパーンダヴァとの戦いが始まりました。
クンティーはカルナの黄金の鎧を見て、彼が自分が結婚前にスーリヤとの間に産んだ子どもだと初めて知りました。
クンティーは「パーンダヴァはおまえの弟。戦うことは止めてくれないか」と説得したそうです。
しかし、カルナにとっては自分を捨てた母親ですし、異父弟とは言え天敵アルジュナがいるパーンダヴァになど味方したくはなかったはずです。
そして何と言っても、身分が低いとさげすまれていた自分を引き立ててくれたドゥリヨーダナへの忠誠心は何よりも勝っていました。
カルナはパーンダヴァ軍への参加をきっぱりと拒絶します。
しかしクンティーへの気遣いか「私はアルジュナしか殺さない。他の者を倒すチャンスがあっても見逃します」と宣言したのでした。
そしてパーンダヴァVSカウラヴァの同族戦争が始まります。
パーンダヴァ側のクリシュナの知謀に翻弄され、カウラヴァ側は次々と司令官を失って劣勢となりました。
カウラヴァの司令となったカルナはドゥリヨーダナの期待に応えようと、因縁のあるアルジュナとの1対1の対決に挑みました。
異父兄弟の対決は18日戦争のクライマックスとも言えるクルクシェートラの大戦の終盤だったと言います。
アルジュナには名弓ガーンディーヴァがあり、カルナには一撃必殺と言われる槍シャクティがありました。
両者共に神の武器を持っての戦いでしたが、シャクティはもともとインドラの武器です。
そしてアルジュナはインドラの息子です。
どう考えてもカルナが絶対的に不利ですよね。
二人の戦いは壮絶なもので、なかなか決着がつきません。
やがてカルナは槍を投げますが、その時アルジュナの乗る戦車を操縦していたクリシュナ(ヴィシュヌの化身)が車高を低くしたのです。
するとシャクティはアルジュナの頭をかすめただけで、何の被害も与えることはなかったのでした。
それどころかカルナの乗る戦車の車輪は地面にめり込んでしまったのです。
バランスを失うカルナは隙だらけとなりました。
アルジュナはその機を逃さずガーンディーヴァを使いました。
彼の矢に射られた異父兄カルナは戦場に散りました。
エンタメ世界でのカルナ
Fateシリーズ
https://www.youtube.com/watch?v=OEyjKuUoSEQ
槍兵クラスのサーヴァントです。
ゲームで槍を扱うというのは、原典マハーバーラタでのシャクティを参考にしているのでしょう。
最上級の英霊とされ、その力は最強クラスのサーヴァントに匹敵するほどだとか。
マハーバーラタでもカルナは黄金の鎧をインドラにだまし取られなかったら不死身と言われましたし、ゲームにおいても彼の強さを取り入れているのでしょう。
カルナ まとめ
産まれてすぐに捨てられた子どもというのはギリシャ神話のオィディプス、パリスなどの例があります。
しかし、カルナほど非情の運命に翻弄された者はいないと思われます。
一時的にしろオィディプスは王位に就き、妻を娶り家庭というものを味わいました。
その妻が実の母で、悲劇の結末になったのですが。
パリスも絶世の美女ヘレンとの恋を満喫し、故国とともに滅びました。
この二人は短期間ではありますが、人生を享受したのです。
しかし、カルナにはそんなささやかな幸せを味わうこともありませんでした。
パーンダヴァ側の捨て石になるための存在、それが悲劇の子カルナだったのではないかと思います。
だからこそ、アルジュナ以上に強くカルナを慕うファンも多いのでしょう。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。