太陽神はギリシャ神話、北欧神話、そしてこのインド神話にも存在しますが、【暁の神】というのは珍しいのではないでしょうか?
今回紹介するウシャスは若く美しい暁の女神と呼ばれる神様で、『リグ・ヴェーダ』では女神の中で一番多くの賛歌を捧げられています。
最も注目され、敬愛された女神であったと思われます。
暁紅の女神
サンスクリット語のウシャスは【輝く】の意味です。
夜の闇を払う朝の光の輝きということでしょうか。
夜明けの光を神としたもので、ギリシャ神話の曙の女神エオスと同一視されているようです。
元々はバラモン教の神だったのが、ヒンディー教に取り入れられたとされています。
その姿は、真紅の衣を身にまとい、黄金のヴェールを着けているとされ、元々が若い美女ですから、舞姫ともたとえられたようです。
以前紹介した美形太陽神スーリヤの恋人とも言われ、太陽が出る前に夜の闇を払っていくのがウシャスなのです。
確かに、夜→夜明け(暁)→朝=日の出と時間が移りますから、太陽神の前に暁の神が登場するのは当然ではありますね。
恋人のスーリヤはウシャスを抱きしめようと追いかけます。
やっと追い付き、抱きしめた瞬間、ウシャスは消えてしまうのです。
これは夜明けから完全な日の出の時間になったことを示しているのでしょう。
消えてしまった美しい女神は翌日再登場します。
そしてスーリヤが追い付け、追い付いて抱きしめるとウシャスはまた消えてしまうのです。
この果てしない繰り返しこそが、時間(季節)の移り変わりというものではないでしょうか?
「よきものを伴いて、我らがために、ウシャスよ、輝き渡れ、天の娘よ、高き光彩を伴いて、輝く〔女神〕よ、富を伴いて、女神よ、賜に満ちて。(略)我に向かいて恩恵を誘発せよ、ウシャスよ」
(辻直四郎訳『リグ・ヴェーダ讃歌』岩波書店より引用)
人々に慕われた女神
女神ウシャスの暁の光によって闇が追い払われ、隠された財宝が明らかになると考えられていたようです。
女神ウシャスは世界中の全ての者(偉大な者、貧しい者区別なく)に富と光をもたらし、幸せを与えてくれる神とされています。
そのためか、友として民衆に最も人気のあった女神でした。
また、彼女には夜の女神ラートリーという姉がいるのですが、この姉女神も全ての者に安らぎを与える役割を持っていると言われています。
この二人の女神は一緒に讃えられることがおおかったようです。
夜と暁-つながっていますよね。
一説では、ラートリーは毎夜太陽を身ごもり、出産するのですが、同時に自分は消えてしまわなければならないので、太陽を育てることはできません。
そこで、妹のウシャスに太陽を育ててくれるように頼んでいるというのです。
ウシャスが夜の闇を払うのは、姉の子である太陽を護るため、と言われています。
なかなかおもしろい説ですね。
やがて時代が下ると、太陽神スーリヤが注目されるようになり、ウシャスやラートリー2女神の重要性は薄れていくのですが、彼女への美しい讃歌は現在まで受け継がれているのです。
摩利支天信仰
戦国時代の武将達が守り神として信仰した摩利支天。
この起源はウシャスと言われています。
暁の女神が猛猛しい武将達の守り神になるなんて、意外ではありますが、【自在の神通力を持つ】と言われたウシャスですから【姿が見えなくても自分を護ってくれる】神と崇めたのもアリかなと思います。
有名どころでは、武田信玄の軍師だった山本勘助、前田利家なども摩利支天を信仰していたと言われています。
⇒ 摩利支天~聖徳太子に鏑矢と「忍」の一字を授けた陽炎の神~
エンタメ世界でのウシャス
若く美貌の女神ウシャス。
いろいろな属性を付けるとゲームキャラにはぴったりですね。
『摩利と新吾』 木原敏江作
昭和50年代の名作漫画です。
純日本的美少年新吾とドイツ人の母を持つエキゾチックな美少年摩利が大正時代の全寮男子校を舞台に繰り広げる友情あり、社会的問題提起有り、BL的展開(当時は衝撃的でした)ありの人気漫画でした。
主人公の一人摩利の名前は摩利支天にちなんだということで、紹介しました。
USAS(ウシャス) MSX2版
ゲーム界では、1987年にコナミから発売されたMSX2のゲームソフト「USAS(ウシャス)」を思い出します。
このゲームは横スクロールのアクションゲームで、岩を動かしたりと少しパズルゲームの要素も含んでいました。
物語の主軸は「4つに分裂したUSAS(ウシャス)の秘宝を探し出す」というもの。
「ウシャスの光によって隠された財宝が明かされる」という原典に沿っているのがわかります。
また、このゲームは途中で「喜」「怒」「哀」「楽」というアイテムを獲得するたびに攻撃方法が変わるのも面白い要素の一つです。
「USAS(ウシャス)」はWii UバーチャルコンソールやプロジェクトEGGでも遊べますので、興味があれば是非チャレンジしてください。
ウシャス|摩利支天と混同される暁の神 まとめ
美しいだけではなく、母性も兼ね備えていたと思われる暁の女神ウシャス。
母性と言っても、大地母神ガイアのような恐ろしい母ではなく、姉の子を育てたということから優しく大らかな母性の持ち主と思われます。
その心が“自分を護ってくれる”神と信じられ、武将達に信仰された理由ではないでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。