北欧神話で重要な位置にいるのは神々や人間だけではありません。
時には敵になり、時には味方となって対立、協力する【巨人】と【小人】もキーパーソンズなのです。
神々の租【巨人】
北欧神話を語る上で絶対欠かせないのは【巨人】でしょう。
一言で表現すれば、巨人は神や人間に害悪をもたらす【敵役】ということになります。
彼らの性格は獰猛ですが、純朴と言うか、単純なところがあり、簡単に騙されることもあります。
体格は名前の通り巨大で、その分たくましく強力なパワーを持っています。
絵画などでは、彼らの容姿は巨体で醜く描かれることが多いのですが、人間とほとんど変わらない体格の者や、ロキの息子魔狼フェンリルのように獣の姿をした者、あるいは神々が一目惚れするほどの美貌を持つ者など多様な者がいました。
怪力や魔法に通じた者、博識な者など実に多彩な特技を持つ者が巨人族にはいましたが、その中には神々以上の能力を誇示する巨人もいました。
以前紹介しましたが、ウートガルザ・ロキは幻術を使って雷神トール&邪神ロキの悪友(?)コンビとの力比べに勝利しましたね。
また“巨人は一種の魔術師だった”という説もあり、ずば抜けた建築技術を持っていたそうです。
現在のデンマークには彼らの手によるとされる巨石建築が多く残っています。
巨人と言ったら、原初の巨人ユミルの一族である【霜の巨人】が有名ですが、彼らの他にも炎に強い【ムスッペル】と呼ばれる炎の巨人や、雷神トールと対決したフルングニルの【山の巨人】一族などもいて、いくつかのグループに分けることができます。
このグループ分けは北欧の自然や災害に対応していると考えられています。
一般的に神話においては、神とその敵が光と影の対のように対照的な存在として描かれ、善である神が絶対的悪を倒し、めでたしめでたしとする勧善懲悪なストーリーが多い傾向があります。
しかし、北欧神話における巨人は、最高神オーディンに知恵を授けるミーミル、女巨人スカジのようにニョルズの妻に迎え入れられたりする者もいて、神と対立する完全なる悪とは考えられていません。
しかも、神より先に誕生した巨人はアース神族とは血縁関係にあり、神族に匹敵する力を所持しているのです。
そのパワーは、ラグナロクで巨人族が神々を滅ぼしてしまったことでも証明されています。
巨人がよくある単純な悪として扱われことがないのは、彼らが北欧の国々を取り巻く自然環境の象徴とも言える存在だからなのかも知れませんね。
強力な力を持つ残酷な所行もしますが、巨人はどこか憎めないような感じがします。
優れた職人【小人】
北欧神話では、オーディン愛用の槍グングニルなど、とても魅力的な魔法のグッズがたくさん登場します。
しかし、そのグッズを作ったのは神々ではなく、大半は小人(ドヴェルグ)達でした。
小人の誕生には二通りの説があります。
一つは元始の巨人ユミルの血と骨から作られたというもの、もう一つはユミルの死体に湧いたウジのような微生物に、人間に似た姿と知性を神々が与えたとといものです。
小人の性格は邪悪で好色というまことに性悪で、容貌も鼻周辺が青白くて死人のように不気味とされています。
日の光に弱く朝日を浴びると石化してしまうとも。
太陽の光に弱いとは、まるで吸血鬼ですね。
しかし、彼らは手先が非常に器用で、しかも鍛冶の術に長けていたので、神々からはとても重宝されていました。
重宝と言うか、ロキなどはアメとムチで便利に使っていたと言った方がぴったりかも知れません。
小人達の作る魔法の品は非常に有能で便利なシロモノでしたが、何かと引き替えにその能力を発揮するという物が多かったのです。
交換するものが本人にとってはかなり大事な物だったり、命の危険があったりするので、オーディンですら振り回されることがありました。
ちなみに小人と同一視される生物もいて【黒妖精(デックアールヴ)】と言われていました。
彼らは地下の世界に住んで、体の色は瀝青(れきせい=アスファルトなどに含まれる炭化水素混合物、黒い)よりも黒いと言われ、小人と似た姿をしています。
この醜い黒妖精とは対照的に、太陽よりも美しいと言われる妖精もいて、【白妖精(リョースアールヴ)】と呼ばれています。
彼らの姿は神々と似ていて、アールヴヘイムに住んでいると言われています。
二つの妖精族(白と黒)をまとめて【妖精族(アールヴ)】と呼びますが、彼らは人間にとってはある種の先祖霊だったのではないかと考えられているそうです。
北欧神話の5種族
主に5つの種族が北欧神話には登場しますが、ここで改めて紹介しましょう。
アース神族
原初の牝牛アウズフムラが舐めた氷から誕生したブーリを祖とする神々達のことです。
ブーリにとっては孫にあたる3兄弟の長男、オーディンが主神となっています。
美しいアースガルドの宮殿に住んでいるとされています。
主な神としては以下の3神でしょうか。
オーディン:言わずと知れた北欧神話での最高神
ヘイムダル:アースガルドと他の世界の境界となっている虹の橋の番人
イズン:神々が食べる若返りのリンゴを管理し、守護する女神
ヴァン神族
アース神族より前に存在していたと言われるヴァン神族。
その名前には【光り輝くもの】という意味があるとされています。
彼らには未来を読む能力があったと言われていますが、はっきりしたことは不明です。
ヴァナヘイムという国に住んでいて、アース神族と戦いになったこともありました。
和平が成った後は、アース神族とはなかなか友好的な関係だったようです。
有名どころとしては
ニョルズ:航海を司る神。巨人族の娘を妻としました。
フレイ:豊穣の神。美形です。イング神とも呼ばれます。
フレイヤ:フレイの妹で愛と美の女神。美女故にモテモテで、彼女自身も恋愛関係を満喫していたようです。
巨人族
ここでは2つの巨人族について紹介します。
霜の巨人
元始の巨人ユミルから始まる巨人達は、結果的に神族の敵となりました。
その姿は醜い巨体と思われがちですが、人間とほぼ変わらない大きさのもの、獣の姿をしたもの、神族が恋するほどに華麗で美しいものなど様々だったようです。
魔術師の範疇に入る存在だったとも言われており、ヨウトゥンヘイムという国に住んでいます。
代表的な巨人はやはりこの人でしょう。
ユミル:原初の巨人にして霜の巨人の先祖でもあります。
炎の巨人(ムスッペル)
灼熱の国ムスペルヘイムに住む巨人ですが、強烈な熱にも耐えるたくましく強靱な体を持っています。
実力もある巨人なのですが、神話にはあまり登場することはなく、ラグナロク以外にはほとんど登場しません。
ラグナログに幕を引いた炎の巨人を紹介します。
スルト:ムスッペルの長にして、その炎で世界を焼き尽くした巨人です。
小人族(ドヴェルグ)
前述したように、魔法のアイテムを作り上げるすばらしい職人達です。
住処は主に地中や岩など暗い場所を好んでいました。だからなのか、日光を浴びると石になってしまうそうです。
容姿は醜く、性格は邪悪で好色、神をだましたり、無意味に人を傷つけたり、殺してしまったりと犯罪者的な者も多かったようです。
アース神族にとって大切な武器を作った小人もいます。
ブロック:トール愛用の大槌ミョルニルを作りました。この大槌はトール以外に扱うことのできない優れた武器として、ラグナログでは世界を取り巻く大蛇ヨルムンガンドを倒すなど大活躍しました。
妖精族(アールヴ)
その容姿が神族に似ている美しい白妖精と、醜い姿なので小人族と同一視されることがある黒妖精の2つの種族がいるそうです。
人間族
やっと人間の登場です。
神族が元始の海に漂う流木から作り出したと言われています。巨人の侵入を防ぐための柵で囲まれたミッドガルドに住んでいて(以前紹介しましたが『進撃の巨人』はここからアイディアをもらったという説もありますね)、ラグナロク終結後、新しい世界に復活した男女が今の人間の先祖とされています。
有名の人間の英雄と言ったらこの男でしょう。
シグルズ:ファヴニールが変身した竜を退治しましたが、同時に手に入れた指輪アンドヴァラナイトの呪いによって、ヴァルキューレブリュンヒルドとの悲劇の恋に倒れることになったのでした。
北欧神話の鍵を握る巨人と小人~神話に欠かせない対照的な存在~ まとめ
個性的なキャラクターが縦横無尽に活躍する北欧神話。その中でも印象的な【巨人】と【小人】を今回は取り上げてみました。
神や人間の敵となり、味方となり、思いのままに神話を生きた彼らは、滅びの運命に縛られたオーディンなどより、ずっとずっと生き生きしているような気がします。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。