男か女かわかりにくい名前ですが、スカジは巨人族の女で、父親は若返りのリンゴを管理している女神イズンを誘拐したシアチです。
アースガルドの神々にとっては犯罪者だったシアチの娘はアース親族の妻になるのですが、どんな事情があったのでしょう。
ニョルズの妻
種族: 山の巨人?/アース神族
地域: スリュムヘイム
別名: スキーの女神、アンドルグス、狩猟の女、スカアハなど
スカジは巨人シアチの娘で、前述のように、シアチはロキをそそのかしてイズンを誘拐させた張本人でした。
巨人族の娘でしたが、アース親族の神の妻となったので、アース親族として認められました。
しかし、住むところはアースガルドではなく、ヨイゥンヘイム(巨人族の国)にあるスリュムヘイム館でした。
その理由は後ほど説明します。
スカジには【スキーの女神】【アンドルグス】【狩猟の女】【スカアハ】などの別名があったそうです。
スカアハはケルト神話での彼女の呼び名です。
スカジ自身は弓矢が得意で、狩人としてもその名が知られています。
父シアチが神々に殺されたことを恨み(因果応報ではないかと思いますが)その敵討ちにアースガルドにやって来ました。
彼女の怒りを収めようと、アース親族は「シアチへの償いとして、スカジに神々の中から好きな男を婿にできる」という条件を提示しました。
スキーの女神
スカジはスキーがとても上手だったと言われています。
そのせいか、彼女の別名【アンドルグス】は【スキーの女神】を意味するそうです。
弓矢
またスカジは狩りの名手でもあったようです。
体育系女子だったのでしょう。
スキーに乗り、弓を使って狩猟を行っていたと言いますから、相当体力的にも強い女子だったようですね。
父親の敵討ち
美しいが気性も激しいスカジ。
ある時怒りに震えながら、アースガルドの神々の元に武装して乗り込みました。
原因は父シアチの死でした。
シアチの章で紹介しましたが、彼はロキをそそのかし、若返りのリンゴを管理していた女神イズンを誘拐させたのです。
彼女の不在でリンゴを食べられなくなった神々は途端に老化し、アースガルドは大混乱に陥りました。
ロキに命令し、イズンを取り戻したアースガルドの神々でしたが、犯人のシアチは罠に掛かり殺されてしまったのです。
自業自得と言えそうなシアチの最期ですが、スカジは納得できませんでした。
武装して一人アースガルドへ乗り込んだのです。
敵中に単身乗り込むとはよほど自信があったのか、気の強さが想像できますね。
父の敵討ちに乗り込んできたスカジを見て、さすがに哀れと思ったのでしょう。
アースガルドの神々は和解を申し出たのです。
美女に弱いのは神も人間も同じということでしょうか。
和解の条件としてスカジが希望したのは「アースガルドの神々の中から私の夫を選んで良いなら」ということでした。
このあたりは若い女性らしさを感じさせるエピソードですね。
「わかった。ただし、顔を見るのではなく、足を見て夫を選びなさい」それがオーディンの出した条件でした。
足だけで選んだ夫
神々とスカジはお互いの条件に納得し、早速スカジは夫選びを始めました。
実は彼女には決めていた男がいたのです。
それは【光の貴公子】ことオーディンの息子のバルドルでした。
超美形で有名なバルドルに恋していたのかも知れませんが、このエピソードもなかなかカワイイと思うのですが、いかがですか?
足だけを出し、顔はもちろん上半身を隠した男神たちが並ぶ中、じっくりと足をチェックしていたスカジは美しい足を見つけます。
透きとおるような美しい白い足でした。
これこそバルドルに違いないと確信したスカジは、この神を夫にすると言い放ったのです。
ところがいざ顔を見てみると、それはバルドルではなく、航海の神ニョルズだったのです。
あこがれの貴公子とは似ても似つかない、子持ち(フレイとフレイヤ)の神を引き当ててしまったスカジ。
神々はそんな彼女を「神の美しき花嫁」と呼んで歓迎しました。
でも、釈然としないスカジはまたまた要求を出しました。
「わたしは父親のシアチが死んでから全然笑ったことがない。私を笑わせたら、この夫を受け入れよう」と言ったのです。
さてどうしたら女戦士を笑わせることができるのかと悩む神々の中から、ロキが名乗り出ました。
シアチが死ぬきっかけを作ったのはロキですから、少しは責任を感じたのでしょうか?
ロキがスカジを笑わせようとした方法がまた下品でした。
自分の陰嚢とヤギの髭に紐を結び、ヤギと引っ張りあいをしたのです。
なんとも下世話なやり方で笑いを取りに行ったロキ。
よほどの変顔や動作をしたのでしょう、スカジは思わず笑ってしまい、やっと彼女と神々との間に和解が成立したのでした。
かみ合わない新婚生活
こうやって女狩人スカジと、航海の神ニョルズの新婚生活は始まりました。
しかし、もともと生活環境が全然異なっていた二人です。
新居で揉めました。
スカジは当然山に住みたいと望み、ニョルズは海のそばが良いと言うので意見は一致しなかったのです。
『新エッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」によれば、散々議論した結果、二人は9日間ずつ、それぞれの住居に交互に住むことにしたそうです。
スカジが生活していたスリュムヘイムと、海の近くにあるノーアートゥンですね。
なんとか意見をすりあわせ、いよいよ新婚生活開始と思えたのですが、ニョルズが希望する海の近くでは海鳥の鳴き声でスカジは眠れず、スカジの希望する山奥ではオオカミの遠吠えにニョルズはほとほとうんざりするといった調子で、互いに不満が募っていきました。
二人の夫婦仲については正反対の説があります。
『古エッダ』の「ロキの口論」には、神々の酒宴には夫婦そろって出席していると書いてあり、『ユングリンガ・サガ』ではスカジはニョルズと別れてオーディンの妻になったと書いてありますから、結果的にはニョルズとはうまくいかなかったのかも知れませんね。
育った環境が違うから~♪ なんて歌を連想しませんか?
姿を変えたスカジ
スカジの別名【スカアハ】はケルト神話での名前と紹介しました。
ケルト神話の英雄であり槍の名手であるクーフーリンの師匠ともいわれています。
Fate/Grand Order
『Fate/Grand Order』ではこの設定で登場します。
スカアハと似たスカサハという名前で呼ばれ、弟子クーフーリンの設定にちなんで槍の使い手、ランサーとして活躍します。
マンガ 『妖精王』 山岸凉子作
かなり前ですが、山岸凉子に『妖精王』という長編漫画がありました。
OAV化もされ、知る人ぞ知る傑作と評判でした。
舞台は北海道で、人ならぬ妖精達が他の種族の妖精と戦って和解するという話なのですが、主人公の従者としてクーフーリンというキャラが登場します。
物語の鍵を握る重要な魅力的なキャラでした。
馬に乗り、槍を使う男でしたが、今にして思うとこちらのクーフーリンがモデルになっていたのかも知れません。
ゲームやアニメでは動かし易いのか、北欧神話のスカジそのものではなくても、【武装して戦う女性】は多いですね。
筆者などは戦士+美女+巨人=『超時空要塞マクロス』のゼントラーディ人の女兵士ミリアを連想してしまったのですが、ミリアを連想した方は他にもいらっしゃるのでは?
スカジ~一人で敵中に乗り込んだスキーの女神と槍の師匠スカアハ~ まとめ
父親の仇も取れず、狙った相手もゲットできず、子持ち男と結婚する羽目になった美女…と言うと儚く可哀相なイメージですが、スカジは強い女性でした。
彼女はロキに対する恨みだけは忘れなかったようです。
ロキの行動に耐えかねたアースガルドの神々が彼を木に縛った時、頭上に毒蛇を置いて、猛毒がロキの顔に滴り落ちるようにセットしたのはスカジだったと言われています。
「不本意な結婚生活ももともとはロキのせいだ」という思いがあったのかも知れませんね。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。