北欧神話における美青年と言ったら、オーディンの息子であるバルドルとフレイの名前が上がるでしょう。
バルドルはご存じのように【悲劇の貴公子】でしたが、フレイは自分の判断で【アース親族に悲劇をもたらした貴公子】になってしまったのでした。
フレイ
種族: ヴァン神族/アース神族
地域: ヴァナヘイム/アースガルド
別名: 豊穣の神、結婚の神、恋愛の神、ユングヴィなど
もともとフレイは、最高神オーディンやトールなどのアース神族ではありません。
アース親族以前から存在していたとはヴァン神族で、航海の神ニョルズの息子であり、恋多き美女神フレイヤとは双子の兄妹です。
ヴァン親族とアース親族の争いが起こったとき、人質として父ニョルズ、フレイヤと一緒にアースガルドへ移住して、アース神族の一員として認められるようになったのでした。
フレイは世界で一番美しい場所と言われる白妖精の国アールヴヘイムの支配者でもあり、繁栄を約束し、豊穣と富を司る北欧神話でも美男神として有名です。
豊穣の神、結婚の神、恋愛の神など華々しい別名がありますが、フレイ自身がアースガルドでも指折りの美形神と言われていることを考えれば当然なのかも知れません。
美男、美女には恋愛が付きものですからね。
【ユングヴィ】というのは、古い時期のフレイの呼び方であったと言われています。
フレイの剣 (Sword of Freyr)
愚者が手にすれば何も切れないなまくら刀だが、賢者が手にすれば勝手に戦うと言われている剣です。
非常に便利で有効な剣でしたが、フレイはこの剣を自分の恋愛成就のために従者のスキニールニルに与えてしまったのです。
彼にとって大切だっただけではなく、アース親族にとっても価値ある剣でしたが、フレイのもとに還ることがなかったため、ラグナロクでフレイ落命したのでした。
スキーズブラズニル
小人族のドヴァリン兄弟によって作られた魔法の帆船で、アースガルドの神々全員を乗せることができるサイズでした。
帆を張れば必ずどこからか風が吹き、どの方向に向かっても追い風を受けて目的地まで進むことができるという大変便利な帆船です。
もっと便利なことに、神々全員が乗れるサイズでありながら、使用しない時は小袋に入るほど小さくなるというとても優れた便利グッズでした。
ちなみにこのような魔法の道具は小人族の手によって作られました。
オーディン愛用の長槍グングニルやトールの大槌ミョルニルと一緒にアースガルドに献上されたのですが、スキーズブラズニルはオーディンの帆船という説もあります。
巨大サイズの船は最高神に似合いのものと思われたのかも知れません。
グリンブルスティ
これも小人族のブロックとエイトリによって作られた黄金のイノシシで、陸海空を自由に疾走できるそうです。
フレイの乗り物として愛用されています。
【猪突猛進】という言葉がありますが、スピードは期待できますが、方向転換などはイノシシでは危険じゃないかと思いますが、どうですか?
妹のフレイヤの乗り物は確か猫でしたが、こちらは速度が期待できないようですね。
イノシシながら馬よりも速く走り、空中や水中も自在に移動することができるという優秀な乗りもの。
美男のフレイがキンキラのイノシシに乗って駆ける姿はさぞかしモテモテだったことでしょう。
豊かさや富を約束する神にふさわしく、彼はたくさんの魅力的な宝物を持っていたと言われています。
神界第二の貴公子
フレイは最高神オーディン、雷神トールと合わせてアースガルドに君臨する3大神に数えられています。
彼は雨と日光を司る豊穣の神であり、出産や結婚、家庭生活に幸せをもたらしてくれる神として大いに信仰されていました。
神々の中で最も美しい容姿のフレイは双子の妹でフレイヤとともに美男美女の兄妹神としても有名です。
フレイという含葉には【支配するもの】という意味があるそうで、その名のとおり、白妖精の国アールヴヘイムの王として妖精族を支配しています。
このアールヴヘイムという国は、フレイの乳歯が生えたお祝いとしてアースガルドの神々から贈られたものとされています。
実は【フレイ】というのは本名ではなく【ユングヴィ】というのが本当の名前だったとも言われています。
ちなみに北欧スウェーデンで最初の王朝を開いたユングリング家はフレイの子孫と名乗り、ユングヴィにちなんで【ユングリング】という名前を付けたそうです。
この事実からも北欧では人々がフレイに強い信仰心を抱いていたということがわかるのではないでしょうか?
愛と引き換えの宝物
フレイがたくさんの宝物を持っていたことは前述しましたが、彼はその全てを最後まで手にしていたわけではありません。
【恋は盲目】と言いますが、フレイも恋愛に夢中になり、大切な宝物を手放してしまったのです。
フレイの剣で知られる自らの意志で敵と戦う宝剣と、魔法の炎も恐れず飛び越えてしまう名馬フレイファクシの二つです。
この大事な宝物を手放した理由=フレイの恋愛話を紹介しましょう。
フレイは巨人族の美女ゲルダにひと目ぼれしました。
ところが神である自分に対し、ゲルダは敵対する巨人族の娘ですから、【ロミオとジュリエット】ではありませんが、アースガルドの神々からも巨人族からも反対されるだろう、第一本人の気持ちもわからないと気をもんだフレイは従者であり幼なじみであったスキールニルに相談しました。
「よっしゃ!」とばかり引き受けたスキールニルはフレイの代理として巨人族の国ヨトゥンヘイムを訪れると、ゲルダとの間を取り持ってくれるように頼みこんだのでした。
一説によるとゲルダ自身を剣で脅してフレイとの結婚を承諾させたという話もあります。
危険な任務を引き受けたスキールニルは代償として名馬フレイファクシとフレイの剣を要求しました。
この剣は雷神トールが持つ大槌ミョルニルと肩を並べるほどの強力で、来るラグナログで巨人族を倒すための重要な武器になるはずでした。
フレイだけではなくアース親族にとっても重要な武器だったのですが、フレイは二つの宝物を従者に譲り渡してしまったのです。
望み通りゲルダと結婚できたフレイは、仲の良い夫婦として家庭円満のシンボルとされるようになりました。
しかし、ゲルダを得た代償としてフレイは大き過ぎる犠牲を払うことになったのです。
自ら敵と戦ってくれる剣=最強の武器を手放してしまったために、ラグナロクでは剣ではなく鹿の角で戦わなければならなくなったフレイは炎の巨人ムスッペルの首領スルトに殺されてしまったのでした。
スキールニルがもらったフレイの剣の行方は実は不明です。
【光の剣】【勝利の剣】などとも呼ばれる剣は、逆説のようですが、唯一フレイを傷つけることができる武器と思われていたため、巨人スルトが持っていたのではないかという説もあるそうです。
マッチョな貴公子
何となくスマートなイメージがあるフレイですが、実はたくましい体格をしていたと言われています。
ラグナロクではオーディンやトールと並んで前線に立ち、巨人を素手で殴り倒したというのですから、マッチョでなければできませんよね。
でもその性格は荒々しくはなく、戦争よりも平和を好んでいたそうです。
フレイは豊穣の神ですから男達を死に追いやって、妻や花嫁を悲しませることはしないのです。
このような優しいフレイを神々はもちろん人間たちは愛し、信仰し、平和で安心できる生活を願ったのでしょう。
エンタメ世界のフレイ
残念なことにフレイが登場するゲーム作品はあまり多くないようです。
悲劇の貴公子バルドルは妻がいても、その悲劇性のおかげかキャラ設定が利用されるようですが、円満な結婚生活というのが女子受けしないのかな、なんて筆者は思ってしまいますが。
と言っても、神々の中では最も美形の貴公子というだけではなく、妖精国(名前からしてゲームには必須ですよね)を統べる王であるという点など、フレイは主役として充分すぎる特徴を持っていると考えられます。
恋のために大切な宝物を手放してしまうといったマヌケ(子どもっぽい)な一面もあるので、キャラクターとしては動かしやすく魅力的な神と言えるのかも知れません。
フレイ~勝利の剣を持ち黄金のイノシシに乗る妖精の王、ユングヴィ~ まとめ
美形双子フレイとフレイヤは北欧神話でもよく知られた兄妹神です。
そして二人とも恋愛でエピソードを残しています。
神とは言え、恋愛に悩み、喜び、悲しむ姿が等身大の鏡のようで今も人気を集める理由ではないでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。