数年前からの猫ブームは一段落した感がありますが、人間にとって身近な動物と言えば、猫や犬ということになるでしょう。
古代エジプトには猫の神様がいました。スラリとした8頭身のモデル体型に猫の頭を持った神様の名前はバステトと言いました。
バステトとは?
猫の顔に人間の体。猫好きにとっては、ハートのど真ん中を射貫かれること間違いナシの容姿をした女神です。豊穣の女神でもあるバステトは元々ライオンの顔だったのですが、後は猫の顔になりました。まあ、ライオンもネコ科ですから、大きさが変わっただけなのかも知れません。
その手に楽器を持っている優しい顔が魅力のバステトは、時には子猫と一緒に描かれることもあり、穏やかなイメージの女神ですが、太陽神ラーのお伴をするときは敵をナイフで倒すという戦神という一面も持っています。
バステトの別名
【ハステト】【バスト】【ラーの目】【豊穣の神】【戦いの女神】【安産の神】などなど多くの別名を持っているようです。
【ハステト】【バスト】は発音の違いによるものと思われます。
【ラーの目】というのは、バステトが太陽神ラーの娘とされることが由縁になっています。バステトは父であるラーの命を受けて、人間を罰したという説もあるそうです。
【戦いの女神】と呼ばれることがあるのも、ラーとの関係からでしょう。
また、【豊穣の神】【安産の神】という呼び名ですが、猫が多産と言うことを考えるとごく自然な発想ではないでしょうか?
これらの別名から感じられるのは、バステトという神が人間に近いところに存在するものとされていてということです。
神聖動物:猫
エジプト神話には動物や虫の姿をした神々が数多く存在しています。ハヤブサの頭を持つホルスなどは有名なキャラクターですよね。
自分たちと異なる動物が持つ能力に驚嘆した古代エジプト人達は、彼らを神として崇めるようになりました。
もちろん、猫もそのように神となった動物です。初めの頃は厄介なネズミを取らせるために飼い始めたのですが、やがて猫自身の愛らしさや神秘的な魅力に惹かれていくようになります。これは現代の人間達も同じようなものですから、人間の性情は時代を変えてもあまり変化しないということでしょうか?
猫はペットとして愛玩物になるだけではなく、崇拝の対象として崇められるようになりました。神となった猫は、壁画や像として表現されるようになり、それが女神バステトの誕生につながっていくことになったのです。
シストラム
猫女神バステトが猫頭人身で表される場合に腕に抱いている楽器です。シストルムとも言うそうです。
銅の輪に渡した棒にシンバルが並んだように見えるシストラムは、輪型シストラムと呼ばれています。
この楽器は主として女性用の楽器と言われ、儀式などで女性の神官や王妃などがシストラムを持つ姿はパピルスなどに描かれています。
エジプト人に愛された猫の女神
21世紀の現代、猫は世界中でペットとして愛されています。実は、猫を一番最初にペットとして飼い始めたのはエジプト人と言われていることをご存じですか?
当時の古代エジプトで飼われていた猫の種類は、ヨーロッパヤマネコの亜種であるリビアヤマネコではないかと考えられているようですね。
猫をネズミや毒蛇よけとして飼い始めたエジプト人たちでしたが、猫との共存生活が案外うまくいき、(むしろ快適だったのかも知れません)猫はエジプト人の生活にしっかり溶けこみ、必要不可欠、つまりなくてはならない存在となったのです。
可愛がっていた猫が死ぬと人間はその死を悲しみ、愛猫の復活を願って猫のミイラが数多く作られたそうです。
このような過程を経て、猫は神聖な生き物として認められるようになり、猫を神格化した神=猫の女神バステトが誕生しました。
この女神の特徴は何といっても顔でしょう。スマートな猫の顔にすらりとした女性の体を持っています。
女神らしくネックレスなどの装飾品を身につけ、前述の楽器“シストラム”と盾、籠を手にしていると言います。“安産の神”という別名に合わせたのか、時にはその足もとに数匹の子猫がまとわりついた姿で描かれることもあるようですよ。
猫目神の性格
バステトという名前には【ブバスティスの女主人】という意味があり、これはバステトが生まれた地域の名に由来すると言われます。
バステト信仰はもともと、一部地域の地域神に対するものが始まりとされています。
ブバスティス、テーベなどの古代都市では多くの猫のミイラが発掘されているので、こういった地域で彼女に対する信仰が広まっていたと思われます。
豊穣の女神であると同時に音楽の神であり、出産や子どもを守る神とも言われるバステト。その手にも持つ楽器(シストラム)は俗に言うガラガラオモチャのことで、言うまでもなく子どもをあやす道具の一つですね。それを手にしていると言うことから、女神の優しい一面を感じることができるという説もあります。
エジプト人が猫を愛するように、バステトもまた多くの民衆に愛されました。当然のことながら、バステトを祀る行事はとても多いのです。その中でもナイル川が氾濫した時に行われる【ブバスティスの祭儀】が一番有名でしょう。この祭りは無礼講で酒を楽しんだと言われます。酒に酔って、騒ぐことこそが神聖な行為であると見なされました。
これ以外の祭りでも大勢が集まって練り歩くなど、バステトを讃えるお祭りは非常に陽気でにぎやかだなものです。
ラーの目
バステトの別名の一つが【ラーの目】です。
一説によるとバステトは太陽神ラーの娘とされていますが、ここからの連想で湿気の女神テフヌトとも同一視されているそうです。テフヌトと言ったら元始の女神に近い存在ですよね。
【ラーの目】と言う二つ名を持つ女神は他にもいるのですが、中でも獅子の女神セクメトが有名です。
セクメトは猫科であるライオンの顔を持つ女神で、太陽神ラーの命令で人間を殺戮した戦女神です。
バステトも元々はセクメトのようにライオンの顔を持っているとされたことがあったので、セクメトと同一視されたこともあったようです。猫目神が楽器のシストラムの他にも、盾と籠を持った姿で表現されているのも戦女神と見なされて、信仰されたためではないかと思われます。
後にバステトは殺戮とは真逆の慈母神とされるようになりましたが、もとを正せば【ファラオ(王)の敵を殺す】という神でしたから、人間に危害を加えることもある残酷で恐怖を感じる神でもありました。
顔がライオンから猫にかわったことで、性格も穏やかになったようですね。
と言っても、バステトはあくまでも猫(肉食獣)です。
安産の神や豊穣の女神として信仰されるようになっても、太陽神ラーの旁らにあってラーの航海に当たっては敵である悪蛇アポピスを鋭いナイフを振るって切り裂くという荒技でラーを守りました。
猫という愛らしい外見と裏腹に荒々しい本性を持つ神というところもバステトの魅力の一つではないでしょうか?
異文化に融合するバステト
猫目神バステトはファラオを側で守護する存在としても信仰されていました。自分の称号の中にバステトという名前を入れたファラオもいたそうです。
前章で紹介したセクメトの残虐性は太陽神ラーに与えられたとされていますが、ラーの命令に従う女神でありながらバステトは穏やかなイメージがあります。言わば太陽に対する月という立場なのがバステトということになるでしょうか。
その連想のせいでしょうか、時代が下ってエジプト神話とギリシャ神話が混じり合った時、バステトは月の女神アルテミスと同一視されるようになったのです。
エジプト神話には動物神が多いので、バステトの存在は違和感ありませんが、世界の神話を見ると、猫が神になる事例は非常に少ないようです。例えばヨーロッパにおいては猫が悪魔の手先とされることはありましたが、神樣とされることはありませんでした。
バステト神は世界でも珍しい猫女神と言えるでしょう。
しかし、日本では猫の女神というインパクトの強さのおかげでしょうか、ゲームにキャラクターとして登場することも多く、古代エジプトから時間的にも距離的にも遠く隔たった現代日本においてもその名前を知られる有名な女神となりました。
エンタメ世界のバステト
4コマ漫画 『イマドキ☆エジプト神』美影サカス
現世に転生しちゃったバステト。スーツ姿でOLもどきをやってます。猫なので、撫でられると喉をゴロゴロ鳴らしたり、魚を見ると食べようとしたり…猫の本能に忠実な行動を取るキャラクターです。
ゲーム 『女神転生』シリーズ
水属性のキャラで、猫を見守る神様とか。
メガテンシリーズの様々な作品に登場します。定番キャラですね。
ゲーム 『パズドラ』
木属性のキャラで猫耳と尻尾を持つ少女の姿をしています。
ソーシャルゲームでは必ずといっていいほど、かわいい女の子キャラに猫耳と尻尾という姿で登場しますね。
置物など様々なアイテムのデザインに用いられるバステト
これはエンタメというわけではありませんが、古代エジプトを思わせるお香立てや置物のデザインとしてバステトはよく使われます。
エジプト王家の宝飾品を身にまとった黒猫はエキゾチックで人気がありますね。
バステト|エジプト人に愛された猫の女神とラーの目 まとめ
今やペットとしての飼育数は犬を抜いて猫が一位になった日本。その神様と言うことでバステトも人気があるようです。筆者も猫好きなので、バステトには好感が持てますね。同じ猫のキャラでも、キティちゃんよりはずっとリアリティがあって、人気があるのも納得です。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。