インド神話の黎明期に紹介される【乳海攪拌】のエピソード。
神々が霊水アムリタを手に入れるために行ったものでしたが、不死になれるアムリタを欲しがったのは神だけではありません。
アスラ族の者達も霊水を求めて画策していました。
そのアスラ族の中で見事神々の裏をかいてアムリタの恩恵にあずかったのが、今回の主役ラーフです。

ラーフとは?

アスラ族の仲間で、日蝕と月蝕を引き起こす力を持つ、首だけの悪魔とされています。
首だけになった理由と、アスラ族には珍しい不死の存在であるという理由はアムリタに深く関わっています。
首だけになる前は、4本の腕と尾を持っていて、8頭の黒馬が引く馬車に乗る姿で描かれています。

ラーフには【偉大なる捕獲者】という意味の【マハーグラハ】という別名があります。
その理由は、後ほど詳しく説明しますが、ラーフが捕まえるのは太陽と月です。

また【サインヒケーヤ】という名前も持つそうですが、この名前は【シンヒカーの子ども】という意味です。
シンヒカーというのは仙人ダクシャ(ブラフマーの子)の娘で、ラーフの母とされる女性です。
【天空の悪魔】を意味する【アブラビシャーチャ】という別名もあるそうです。

首だけのラーフ

ラーフとケートゥ
ラーフとケートゥ

アスラ族でありながら不死となったラーフですが、アムリタとの関係を紹介しましょう。
創世神話によると神々は不死を得られる霊水アムリタを得るために、乳海攪拌を行ったとあります。
神々は大亀を巻き付けた山を攪拌棒として、乳海を掻き回し、やっとアムリタを手に入れることが出来ました。
ちなみにこの時出現した美しい女神ラクシュミヴィシュヌが自分の妻にしたことは以前紹介しましたね。

さて、目出度く手に入った霊水アムリタをヴィシュヌは神々に飲ませようとしました。
それを知ったアスラ族達は奪おうとして戦いを挑んだり、色々なことをしたのですが、神々は護りきりました。
いや、一人だけ神々の目を盗んでこっそりとその中に紛れ込んだ者がいたのです。
それがラーフでした。

ラーフは変装して神々の中に紛れ込み、素知らぬふりでアムリタを飲もうとしました。
ところが変装術が弱かったのでしょうか、尻尾が見えていることに太陽神スーリヤが気づいたのです。
スーリヤは月と酒の神ソーマと共に協力して盗人ラーフを取り押さえました。

アスラ族ラーフの仕業に怒ったヴィシュヌはチャクラム(ヴィシュヌの武器)を投げつけてその首を切り落としたのです。
しかし、ラーフはほんの一口だけでしたが、既にアムリタを口に入れていました。
それで不死になったラーフは首を切り落とされても死ぬことなく、生きていたのです。
そのため、首と胴を別々にして空へ跳ね上げられたそうです。
こうして分かれた首の部分がラーフ、胴の部分はケートゥと呼ばれるようになりました。

首だけになったラーフは天の上で太陽と月と戦いを始めました。
自分の正体をバラされてアムリタを充分飲めなかった怨みが復讐戦の理由だったのでしょう。
ラーフは太陽や月を追いかけ回し、捕まえて食らい付き、飲み込んでしまうときもありました。
太陽や月が姿を消して地上から光が無くなってしまうので、これが日食や月食の原因と言われています。

つまり日食や月食を起こしているのはラーフということです。
だからこそ、【マハーグラハ=捕獲者】という名前でも呼ばれるのでしょう。
太陽と月が飲み込まれるというエピソードは北欧神話ソルとマーニの話にもありますね。
類似性を感じます。

憎い太陽と月を喰ったと言ってもラーフは首と胴が分かれているので、うまく飲み込めなくて、すぐ吐きだしてしまうそうです。
だから日食や月食がすぐ終わるのだと言われています。
こういうことを考えるとラーフとケートゥは天文学や占星術などに影響を与えるものと思われますね。
ラーフとケートゥが別の存在として描かれる場合は、ラーフは8頭の黒馬が引く馬車に首だけが乗っていますが、ケートゥは8頭の赤馬が引く馬車に胴体だけが乗っている姿で描かれるようです。
何も知らないでこんな絵を見てしまうと死に神かと思ってギョッとしますよね。

エンタメ世界でのラーフ

首だけという恐ろしい姿であり、不死という強力なパワーを持つラーフはゲームなどでは格好の敵キャラに思えます。

女神転生シリーズのラーフ

ラーフ(メガテン)
ラーフ(メガテン)

初登場は『真・女神転生デビルサマナー』で、種族は魔王です。

頭部だけ不死になった悪魔というイメージからでしょうか、チャクラムのような円輪の上に一本角のある首という姿をしています。
なお角の先端のデザインはアレそのものなのでさすがにPSP版では修正が入っています。

魔法継承タイプである電撃の他に念動・金縛系スキルを所持し、また古墳迷宮に出現するラーフは即死突撃スキル“まるのみ”を使用するため、全属性魔法反射の防御相性もあってかなり凶悪です。
“まるのみ”というのは、インド神話での太陽と月を飲み込んでしまうというエピソードから来ているのでしょう。

初出作品以外での登場はほとんどありません。
『真・女神転生Ⅳ』のチャレンジクエスト『凶星堕つ』でその存在が言及される程度という影の薄さです。

ラーフ|アムリタを飲んで不死となった首だけの悪魔 まとめ

神の振りをしてアムリタをほんのちょっと口にしたラーフ。
その結果不死とはなりましたが、神々から迫害されることになりました。
太陽と月を食べたりはしますが、結果として太陽も月も死ぬことはありません。
存在する間、ずうっと神々と戦っていることになり、傷ついても死ぬことはない…不死というのは果たして幸せなのかと考えてしまいますね。