ピロクテテスという名前に見覚えがある人はよほどのギリシャ神話通と思われます。

ポイアスという人間がテセウス達の仲間としてアルゴー船でクレタ島に向かいました。

彼らはテセウスがアテナイの後継者であると証明するために、ミノタウロスを倒すなど様々な冒険をしたのですが、ピロクテテスはポイアスの息子でした。

 

トロイア戦争

ピロクテテス
出典:ウィキペディア

ゼウスの息子、脳筋ヘラクレスは死の間際「私の体に火を付けてくれ」と願いますが、その願いに応えようとする者はなかなか出て来ませんでした。

尻込みする人々の中にあって、一人だけ名乗り出たのがポイアスだったのです。

ポイアスはそのお礼としてヘラクレスの弓をもらったのでした。

そのヘラクレスの弓はポイアスから息子のピロクテテスへと譲られました。

ソフォクレスのギリシャ悲劇の一つに『ピロクテテス』があります。

それによると-トロイア戦争が始まったとき、気が進まないままにピロクテテスはギリシャ側の兵士として参戦します。

しかし、トロイアへ向かう途中のレムノス島で毒蛇に噛まれて大ケガをしたのです。

毒の臭いがすさまじいため、仲間であるはずのアガメムノン達は彼を置き去りにしてしまいました。

ピロクテテスはアガメムノン達を呪いながら、レムノス島で一人生き延びたのです。

トロイア戦争はご存じのように10年近くもかかりました。

厭戦気分が蔓延し、アガメムノン始め策士のオデュッセウスも何とかしなければと考えあぐねていたとき、予言があったのです。

つまり【ギリシャ軍が勝つためには、ヘラクレスの弓が必要だ】ということでした。

ヘラクレスの弓は彼らがレムノス島に置き去りにしたピロクテテスが持っています。

ということは彼をトロイアへ連れて来なければなりません。

重傷のけが人を置き去りにしたことは誰でも気がとがめることです。

当のピロクテテスが自分たちを恨んでいるだろうと言うことは容易に想像できました。

そんなピロクテテスをどうやって引っ張り出すか-知恵の働くオデュッセウスの出番でした。

 

オデュッセウスの策略

トロイア戦争に勝つためには“ヘラクレスの弓”が必須アイテム。

何とかしてピロクテテス(と言うよりヘラクレスの弓)を協力させたい策士オデュッセウスの本領発揮です。

英雄アキレウスの若き息子ネオプトレモスをレムノス島へ送り込みました。

彼の不満を聞いて心を開かせ、親友ぐらいの関係にまで持ち込もうとしたのです。

「私もオデュッセウスに父アキレウスの鎧を取り上げられて悔しい思いをしています。あなたと同じく、オデュッセウスは許しません」とウソの話をでっちあげ、ピロクテテスを油断させようとしたのです。

もちろん、オデュッセウスの入れ知恵なのは言うまでもありませんね。

始めはネオプトレモスの言い分など「聞く耳持たん!」とはねつけていたピロクテテスでしたが、少年の真摯な言葉に徐々に心を開いていきました。

やがてすっかり心を許したのです。

「あなたを故郷に送り返しますから」と言われ、その気になり嬉しそうなピロクテテス。

逆にネオプトレモスは良心の呵責に苦しめられます。

アキレウスの息子として、言うなればお坊ちゃん育ちのネオプトレモスは根は素直な良い子だったのでしょう。

ピロクテテスオデュッセウスの言いなりになって、ピロクテテスをだまして良いものか-と悩んだようです。

そんな少年の気持ちはどうでも良い、とにかく戦争に勝つことが最優先事項-まんまとピロクテテスを乗せた船は彼の故郷ではなく、トロイアへ向かったのです。

不審に思ったピロクテテスの前に姿を現したのはもはや【諸悪の根源】のオデュッセウス。

彼は驚くピロクテテスからヘラクレスの弓を取り上げようとします。

オデュッセウスにとっては「ピロクテテス本人はむしろ要らない。ヘラクレスの弓さえあればいい」という心境です。

怒るピロクテテスに「おまえをこのまま海に沈め、その弓を取り上げることもできるのだ。おとなしくトロイアに行くのが身のためだ」と脅迫するオデュッセウス。

父がヘラクレスからもらった弓を手放すことはできません。

ピロクテテスは不満と悔しさを抱えながらトロイア戦争へと復帰したのでした。

ソフォクレスの『ピロクテテス』では、頑強に参戦を拒絶する彼の前にヘラクレスの亡霊が現れ、説得したと言います。

父親のこともあり、ピロクテテスはヘラクレスの言葉に従ったようです。

 

パリスを倒した弓

オデュッセウス達と戻ったピロクテテスはギリシャ側の医師の手当てにより、傷も癒え、正式に戦場に立つことになりました。

この時にはトロイア側ではヘクトルが死に、ギリシャ側もアキレウスが死んで、後に残った者達が戦っていました。

この戦闘の発端を作ったパリスがトロイア側のリーダーとなっていたのですが、ピロクテテスはヘラクレスの弓で彼を射貫いたと言います。

もともと弓の名人だったピロクテテスがヘラクレスの弓を操ったのですから、当然の結果と言えるでしょう。

パリスの死により、より弱体化したトロイア側は逃亡者が相次ぎ、オデュッセウスの【トロイの木馬】作戦の効果もあって、瓦解したのです。

トロイア戦争後、ギリシャ軍の兵士達は放浪や暗殺などの悲劇に見舞われました。

ピロクテテスも同様に船の難破によって、古郷のギリシャではなく、イタリアに流れ着いたと言われています。

 

ピロクテテス~ヘラクレスの亡霊と父に託された弓~ まとめ

父から受け継いだ“ヘラクレスの弓”を持つピロクテテスは、その弓にふさわしいかなりの豪の者だったのでしょう。

怪我をしてからはトロイ戦争に参加しないと拒否したのは、自分を見捨てたギリシャ軍の仲間達に腹が立ったのであって、戦争に参加することは嫌がってはいなかったようです。

単に「自分を捨てたあいつらに協力なんかしてやるもんか」とすねていたのかなと思うとちょっとかわいいなと思ってしまいますね。

SIYA

最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。

「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)

もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。

現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。

マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。