大きな袋を担いだみずらの男…七福神の1人大黒天?
と間違われてしまうことがよくあるのが、今回の主役大国主神です。
名前の読みが同じ(大国=だいこく、大黒=だいこく)なので大黒天と勘違いされてしまうと言われています。

 

出雲を譲り受ける

大国主神は天照大御神の弟であるアノ乱暴者の須佐之男命の直系子孫です。
と同時に、須佐之男命の娘である須勢理毘売(スセリヒメ)命と結婚し、人間の世界である葦原中国の支配権を義父でもある須佐之男命から譲り受けたと言われています。
直系子孫が娘と結婚-須佐之男命にとっては、自分の娘が外孫と結婚したようなものでしょうか?
現代では禁忌の関係ですが、異母兄妹での結婚も認められていた古代はそれはタブーではなかったのでしょう。

須佐之男命の禅譲以後は、大国主命が天津神へ国を譲るまでの間、【地上の国を治める偉大な主】として君臨していました。
彼には多くの名前があり、大物主神、大己貴命、大穴牟遅神、葦原色許男神、宇都志国玉神、八千矛神などと言いましたが、多いのは名前だけではなく【妻】もでした。
まあ、権力者の宿命と言うべきか、望まなくても美人の娘を差し出す臣下は山ほどいたはずですから。
ちなみに妻達は須勢理毘売命を始めとして、八上比売、多紀理毘売命などで、彼女たちとの間にできた子どもも何百人と言われています。

『古事記』『日本書紀』では、何回も命の危険にさらされ、死んでもいるのですが、その度に救いの手が差し延べられて生き返ります。
そこが英雄たる所以でしょう。
彼の命を狙うのはなんと兄弟である八十神ですが、おそらく出雲地方の有力者や、高天原の主流派から派遣された大国主命の討伐隊だと思われます。

大国主命を助けるのは、神の国高天原に住んでいる神産巣日神(カミムスビ)の一派でした。
3番目に高天原に出現した神で、少名毘古那神などをはじめとするこの一派は、ぶれることなく一貫して大国主命を応援し続けます。
しかし、高天原の支配権は、主流派だった高御産巣日神(タカミムスビ)と天照大御神側に移りました。

 

須佐之男命、出雲を統治する

須佐之男命
須佐之男命

天照大御神を激怒させ、高天原を追放された須佐之男命でしたが、あちこち流離った末に出雲に辿り着きました。
そこで八岐大蛇を退治し、同時に美しい妻(櫛名田比売)もゲットし、やっと腰を落ち着けたのでした。

須佐之男命は高天原での乱行は一体なんだったんだ?と言うぐらいがらっと生活態度を改め、まじめに暮らすようになったようです。
美しい妻の影響なのか、意外と櫛名田比売が強くて、言いなりになっていたのか…と想像するのも楽しいですよね。

そんな二人の間に産まれた八島士奴美神が、大山津見神の娘である木花知流比売と結ばれ、布波能母遅久奴須奴神が生まれました。
この神が淤迦美神の娘に当たる日河比売と結ばれ、深淵之水夜礼花神が生まれ、さらにこの神が天之都度閇知泥神との間に淤美豆奴神をもうけました。
なんだか読み方も意味もわけわからない神々ですよね。

しかし、字を見るとおわかりのように八島士奴美神から淤美豆奴神までの神々は、出雲という土地や山、雷、川、淵、沼地などの自然環境を司る神です。
こうした神々と結ばれたり、子どもを生むということは、須佐之男命に代表される英雄が高天原という中央政権を追われ、出雲地方を征服すると同時に、その土地の開拓や治水などを手がけ(統治し)整えていったことを意味しているという説もあるのです。
須佐之男命から続く神々の系譜の数代後には、天之冬衣神と刺国若比売との間に大国主神が誕生します。

 

因幡の白ウサギ

大国主神大国主神が数々の苦難に遭うということは前述しましたが、一番有名なのは【因幡の白ウサギ】のエピソードだと思われます。
日本昔話など、子ども向けの童話にも必ずと言って良いほど載っている話ではないでしょうか?
きっとみなさんもご存じだと思います。
改めて内容を紹介しますね。

大国主命には八十神と言われるほど数多くの兄がいたそうです。
兄たちは美しいと評判の八上比売を妻にしたいと思い、全員で連れだってプロポーズしに出かけました。
相手の比売にとっては「そんなに多くの男性に一挙に来られても…」と困惑したことと思います。

そのとき兄神たちは、末の弟である大国主命に全員の荷物を背負わせ連れて行ったそうです。
80人もの荷物とは相当な量だったでしょうし、大国主命の心境やいかに-と邪推してしまいそうです。
身軽な兄たちはサッサと先に行きましたが、気多岬にやって来ると、皮を剥がれた1羽のウサギが泣いていたそうです。
ワニをだまして海を渡ろうとしたウサギがワニに仕返しとして皮を剥がれてしまったということで、兄たちはしたり顔で「海で体を洗って砂に寝転ぶと良い」と教えたのですが、指示通りにしたら潮が肌にしみてますます痛みが酷くなってしまったのです。
要するに【傷口に塩を塗る】ようなものですから、想像するだけで、こちらも痛くなりますよね。

痛みが増したウサギはより一層泣き叫んでいました。そこへ兄たちからずーっと離れた荷物持ち=大国主命がやって来て、ウサギのケガの理由を聞くと「海で洗ったら余計傷が酷くなる。皮の真水で洗い、がまの穂を敷いてその上を転がれば元通りになる」と教えました。
ウサギは今度こそ適切な治療(?)でケガが治ったのでした。

大国主命へ礼を言うウサギ。
そして「荷物持ちをしていても、あなたの高貴さは隠しきれない。兄神達は八上比売の心を得ることはできず、あなたこそ、比売に選ばれるお方です」と予言したのでした。

ちなみにウサギに正しい対処法を教えたことで大国主命は医療の神様としても信仰されています。

また、八上比売は出雲へ行く途中、山あいに湯気が立ち昇るのを見つけます。
この湯が日本三美人の湯のひとつとして知られる「湯の川温泉」です。

 

八上比売との結婚、兄たちの恨み

八上比売
八上比売

白ウサギが予言したとおり、八上比売は兄たちのプロポーズを足蹴にして、大国主命を選びました。
黙っていられなかったのが兄八十神です。
もともと末っ子の大国主命を小バカにしていた兄たちです。
自分たちを振って選んだのが事もあろうに“下僕”大国主命とあってはタダでは済まないはず…大国主命自身も予感していたかと思うのですが…。

さて、八上比売との婚約が決まった大国主命達は一度国に戻り、仕度を調えて改めて出直すことになりました。
兄たちは帰り道で大国主命を殺そうと計画し、伯伎国の手間山麓で「この山には赤いイノシシがいるらしい。とても凶暴な奴だが、我々が追い出すから、おまえはそれを捕えろ」と命じたのです。
どう考えてもおかしな命令ですよね。
たった一人でイノシシを捕まえろというのは。
しかし、根が素直な大国主命は従い、イノシシが来るのを待ち構えていました。
兄たちは山の上で大きな石を火で焼きました。
そして真っ赤になった大きな石を転がり落としたのです。
大国主命は真っ赤な石を赤いイノシシを思い、捕まえようとして、石に焼きつぶされて死んでしまいました。
同情すべきところなんですが、なんとなく「大国主命ってマヌケ?」という気がするのは筆者だけではないと思います。

大国主命の死を知った母神はとても嘆き悲しみ、天の長老の一人である神産巣日之神に「息子を生き返らせてください」と懇願しました。
母の祈りの強さ故でしょうか、焼けた身体を集めて縫い合わせ、赤貝の汁を塗ると、なんと大国主は息を吹き返したのです。
めでたしめでたしなのですが、始末したはずの弟が蘇ったことを知った兄八十神は、再び大国主命を殺してしまおうと山に連れて行きました。
そして大木を伐り倒して楔を打ち、その割れ目に入らせて、楔を引き抜いたのです。
当然大木同士が合わさりますから、大国主命は挟まれて死んでしまったのです。
兄たちの憎悪を知りながら命令と言え、のこのこと付いて行く大国主命もどうかしてると思いませんか?

大国主命の奇禍を知った母神は息子を挟んだ大木を引き裂いて、再び生き返らせました。
さすがにこのままでは本当に殺されてしまうと思ったのでしょう、母神は「このままここにいたらおまえは兄の八十神に滅ぼされてしまいますよ」と、木国の大屋毘古神の元へ逃がしたのです。
ところが八十神はなおも追いかけ、矢をつがえて大国主命を引き渡すよう要求しました。
八十神もたいがいしつこい!と思ってしまいますよね。

大屋毘古神は木の股をくぐらせて大国主命を逃がし、「そなたの先祖である須佐之男命のおられる根之堅州国(黄泉国)に向かえば、よいように取り計らってもらえるはずだ」と言ったのでした。

 

大国主の試練~蛇、百足、火の試練~

大屋毘古神のアドバイスに従い、須佐之男命が治める黄泉国へ行った大国主神。
彼は、そこで須佐之男命の娘である須勢理毘売と一目で恋に落ち、たちまち結ばれました。
八上比売はどうしたんだ?とここでツッコミましょう。

須勢理毘売は父須佐之男命に「とても立派な神がいらっしゃいました」と告げます。
須佐之男命が見に出てきて「これは葦原色許男(大国主のこと)という男だ」と言い、王宮に招き入れましたが、案内したのは蛇の室でした。

恋する男の危機を知った須勢理毘売命はひそかに比礼(蛇除けのスカーフ)を大国主命に渡し、「蛇がかみつこうとしたら、この比礼を3度振ってください。そうすると蛇はおとなしくなります」と教えました。
大国主命に向かってこようとした蛇は、彼が比礼を振るとおとなしくなり、無事に部屋から出ることができました。

次の日の夜に入れられたのは、百足がうじゃうじゃと蠢き、蜂が巣くう部屋だったそうです。
当然須勢理毘売命はまたまたアイテムをあげます。
百足と蜂を寄せつけない魔除けの比礼を3回振るようにと教えたので、大国主命はこの危機をも脱しました。

須佐之男命の嫌がらせと言うか、婿の品定めはまだ終わりません。
次に、鳴鏑を広野の中に射込むとその矢を取ってくるよう命じたのです。
言われるままに大国主命が広野に入っていくと、須佐之男命は広野に火を放って大国主命が逃げ出せないように囲んでしまったのです。

さてどうしようと途方に暮れた大国主命の前にネズミが現れると「うちはほらほら、そとはすぶすぶ」と謎の言葉をつぶやきました。
これを聞いた大国主命はその場を踏んでみると、ガクッと落ちくぼんだので、そこに伏せていると、その間に火が彼の上を通り過ぎていきました。

大国主とねずみ大国主命が穴に隠れている間に、探し出して須佐之男命に献上するはずだった矢を、ネズミが須佐之男命に差し出したので、須佐之男命自身も誰もが大国主命が死んでしまったと思いこみました。
父が夫を殺してしまったと思った須勢理毘売は泣きながら葬儀の準備を始めました。
一方、須佐之男命は焼け野を見に行ったのですが、そこに穴に隠れていた大国主命が現れ、捜してこいと言われた矢を奉ったのでした。

 

須佐之男命、大国主命を認める

死んだと思った男が生きていた-須佐之男命の気持ちは不明ですが、娘のこともあるし、再び大国主命を家に連れ帰ります。
「頭にノミがいて痒くてたまらん。取ってくれないか」と自らの頭に巣くうノミ取りをさせようとします。
ところが須佐之男命の頭にいたのはノミではなく、大量の百足でした。
ムカデも毒虫ですから、とても危険です。
また毘売の出番です。
椋の木の実と赤土を夫に授けました。
大国主命がガリガリと木の実を噛み砕き、ペッと赤土を含んで唾を吐き出すと、須佐之男命は大国主命が百足を噛み砕いて吐きだしたのだと思い、勇気に感心しながら眠りに落ちました。

「父に邪魔されて、このままだったら結婚生活ができない」と思った須勢理毘売の意見だったのではないかと思いますが、大国主命は須佐之男命の髪をその部屋の棟木に結びつけると、大きな石で戸をふさぎ、須勢理毘売を背負い、生大刀と生弓矢、天詔琴を取り持って王宮から逃げ出します。
そのとき、運悪く天詔琴が木に触れて大地が鳴り轟いてしまいました。
眠りこんでいた須佐之男命はこの音に飛び起き、その衝撃で部屋を引き倒してしまったそうです。

大国主命と須勢理毘売の新婚カップルは、義父須佐之男命が棟木から髪を解いている間に遠くへ遠くへと逃げました。
須佐之男命はあの世とこの世の境である黄泉比良坂まで追いかけ「大国主命よ、おまえが持っている生大刀と生弓矢を使って兄弟たちを坂の裾に追い伏せるか、川に追っ払って、おまえが大国主神となり、宇都志国玉神となって、わが娘の須勢理毘売を正妻として、宇迦山の麓に、岩盤に柱を立てて高天原に届くほど高い宮殿を建てろ」と命じました。
大国主命はその言葉に従って、兄八十神を退け、出雲で国づくりを始めたのです。
イロイロと厳しい試練がありましたが、駆け落ちされては仕方ないと思ったのか、やっと須佐之男命は大国主命を娘婿として認めたということでしょう。

忘れてならない八上比売ですが、大国主命は彼女もちゃんと妻に迎えました。
しかし、須勢理毘売の権勢を恐れて生まれた子どもを連れて八上比売は実家に帰っていったそうです。
自分と結婚するために数々の危機を乗り越えたはずの男が別の妻を連れてきた-彼女も悲しかったでしょうね。

 

唐突に登場する少名毘古那神

大国主と少名毘古那大国主命が出雲の御大岬にいたとき、遙か彼方から天之羅摩船に乗って、鵝皮を着た小さな神がやって来ました。
彼は名を尋ねましたが、相手は答えません。家来にも聞いてみましたが、誰一人知る者はいません。
すると、蟇蛙神多邇具久が「山田にいる一本足の案山子神、久延太古が知っているかもしれません」と進言したので、久延毘古神を呼んで尋ねると「これは神産巣日神の御子、少名毘古那神です」と答えます。
山田の中の一本足の案山子♪という歌がありますね。

閑話休題-

大国主命が高天原にいる神産巣日神に「こういう神をご存じないか」と聞いてみると「それは確かに私の子だが、小さすぎて私の指の間からこぼれてしまった。だがとても優秀な子だから、役立つはずだ。おまえの兄弟として出雲国を整備しなさい」と告げたのでした。
指の間から落ちるような子どもって、どれぐらい小さいんだ?と思っちゃいますよね。

そんなわけで、大国主命は少名毘古那と一緒にこの国の統治を始めましたが、完全に国としての体裁がととのわないうちに、少名毘古那は海の向こうにある常世国(あの世という説もあります)に渡ってしまいました。
神産巣日神からの進言(強制?)があったとは言え、この2神の仲はあまりうまく行ってなかったんじゃないかという気がします。
大国主命としては一人の方がやりやすいと推測しますし。
少名毘古那が常世の国に行ってしまったということを現実的解釈すれば、志半ばで死んでしまったと考えられます。少名毘古那がいなくなって安堵した部分もあったのではないでしょうか。

ちなみにこの【小さすぎる神】少名毘古那は、お伽噺の一寸法師の原型とされています。

 

国津神と天津神の微妙な関係

大国主命が出雲の支配者になった途端、いきなり高天原の最高実力者の一柱である神産巣日と、その子供である少名毘古那が登場します。
しかし、この登場の仕方はあまりにも突然で不自然なので、何か隠れた意味があると言われています。

『古事記』に登場する神々には2つの派閥があって、高天原に住む天津神と、葦原中国に住む国津神とに分かれています。
現実的な言葉で表すと中央政権と地方政権ということになりますが、現代でもそういう傾向があるように、この両者は敵対関係になることがよくあるようです。

この主人公大国主命は国津神(地方政権)に属する存在なので、天津神(中央政権)である神産巣日神や少名毘古那神と対立していてもおかしくはありません。
しかしこの場合は天津神が大国主命を助けようとしています。
と言うことは、高天原の中にもいくつかの派閥があって、国津神を制圧しようとする神だけではなかったということが暗示されていることになります。
神産巣日神や少名毘古那神は、中央政権にありながら、地方と手を携えて一緒に国を作っていこうとする言わば穏健派の神だった-という説もあるようです。

 

大国主神~因幡の白兎伝説と不死身の恋多き英雄~ まとめ

因幡の白ウサギでおなじみの大国主命。
英雄と言われていますが、殺されては生き返り、殺されては生き返る-という学習能力の少なさや、妻に助けられるということを考えると、純粋培養された気の良いお坊ちゃんというイメージも感じてしまうのですが、皆さんはいかがですか?

SIYA

最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。

「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)

もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。

現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。

マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。