オデュッセウスは、ギリシャ神話でもトップクラスの頭脳と冷徹さを持つ軍略家として知られています。

大酒飲みで女好きのヘラクレス、案外激情家のアキレウス、妻に逃げられて甘く見られがちなメラネオスなどと比べると、いかにも《知性的でオシャレな感じの雰囲気を持つ》男ですが、筆者は《陰険》というイメージが最初に来るので、苦手です。

アイルランドの作家ジョイスの長編小説『ユリシーズ』はその名の通りオデュッセウスの物語を下敷きにしたと言われています。

 

トロイア戦争に参加

オデュッセウスはイタケという小さな島の王でした。

昔からその明晰な頭脳は評判になっていたようです。

妻ペネロペとの間にはテレマコスという息子が生まれ、平穏に暮らしていました。

ところがその平穏な日々を破ったのが【パリスの審判】でした。

トロイアとの戦争にはオデュッセウスの優れた頭脳がどうしても必要だと思った総大将ミュケナイ王アガメムノンはなんとしてでも彼を味方に付けようとパラメデスという男に命じました。

「首に縄を付けてでも、オデュッセウスを連れて来い!」

自分が担ぎ出されそうだということを感じていたオデュッセウスは「気がふれた」フリをします。

大切な畑に塩をまき、ロバと牛に鋤を付けて耕していたのです。

塩をまいては植物はダメになりますし、ロバと牛では歩幅が違うので、耕すことはできません。

ところがオデュッセウスの頭の良さ(ズル賢いとも)を知っていたパラメデスは、幼いテレマコスを鋤の前に置いたのです。

さすがのオデュッセウスも我が子を傷つけることはできませんでした。

しぶしぶトロイア戦に参加することになったのです。

オデュッセウスがなぜ参戦をためらったのか、その理由は神託でした。

「この戦に参加すれば再び故郷に帰るまで長い月日がかかるだろう」と言われたのです。

結果的にはその予言は大当たりでした。

でも、オデュッセウスほどの男がイタケという小さい世界に我慢していられたかと思うと疑問です。

自分の知略に自信のある男は、いずれ大舞台で思う残分力を振るいたいと思うはず、彼は名高い国王達と近づく機会を窺っていたのではないかと筆者は推測します。

 

トロイの木馬

トロイの木馬戦場でオデュッセウスはまずアキレウスを引っ張り出します。

彼は母女神テティスが女装させて隠していたのですが、あっさり見破ってしまったのです。

これでアキレウスの死ぬ運命は決定的になりました。

→アキレウスについては「アキレウス」の章で紹介します。

また、アガメムノンの娘イフゲニアを生け贄にすべしという神託が下されたとき、彼は何も行動しませんでした。

オデュッセウスが理を説いて、戦略を定めれば人々は納得し、この少女は殺されずに済んだかも知れないのです。

しかし、冷酷な男はパラメデスを通じてアガメムノンへのわだかまりがあったのか、イフゲニアを見殺しにする側に立ちました。

彼の面目躍如と言われるのが《トロイの木馬》です。

職人エペイオスに巨大な木馬を作らせ、中に兵士を潜ませトロイ城外にわざと放置したのです。

何も知らないトロイアの兵士達は「良い戦利品だ」と城内へ運び入れてしまいました。

寝静まったところで、木馬から兵士達が飛び出し、トロイアの兵達を殺戮し、城に火をかけました。

こうして、トロイアは陥落し、ギリシア側の兵士達は数々の戦利品を手に故郷へと向かおうとしたのです。

 

王妃ヘカベー

ギリシア側の男たちはトロイア王家の女性達を奴隷として分け合いました。

オデュッセウスがもらったのは、プリアモス王の妻で既に老境に入っていた王妃ヘカベーでした。

彼女は自慢の息子ヘクトルを始め、パリスも失っています。

また、老齢だからと戦場に出なかった夫プリアモスを目の前で殺されています。

呆然として涙さえ流せない老女(自分の母親ぐらい)をなぜオデュッセウスがもらうことにしたのか、哀れみや同情という言葉ぐらいこの男に似合わない言葉はないのですから、他の理由があったのでしょう。

あるいは若い女性、ヘクトルの妻やカッサンドラ王女などはアガメムノン達に取られたので、残り物をもらったのでしょうか?

ヘカベーはその後消息不明となります。

オデュッセウスの船の上から身を投げたと言われていますが、真偽は不明です。

そして戦利品の死についてオデュッセウスは何も言っていません。

こういうところに冷酷非情さを感じてしまうのです。

 

ホメロスの叙事詩 『オデュッセイア』

オデュッセイアトロイア落城後、オデュッセウスは故郷へ帰還するはずでした。

ところが、嵐に巻き込まれた彼の船はイタケとは逆方向に流されてしまったのです。

トロイア戦争以上の長期間に亘る漂流の始まりでした。

キルケースキュラなど、恐ろしいが美しい魅惑的な魔女の島へ流されたり、セイレーンの歌声に惑わされそうになったりと、数々の試練を乗り越え、オデュッセウスは10年後イタケに帰ったのでした。

この長い旅をまとめて叙事詩『オデュッセイア』を作り上げたのが、有名なホメロスです。

ホメロスはトロイア戦争をまとめた叙事詩『イーリアス』の作者でもあります。

→キルケー ~豚に姿を変える恐ろしい毒薬を使う魔女~

→スキュラ ~6つの犬の頭と12本の犬の足を持つ不死身の怪物の最期~

→セイレーン ~美しい歌声で魅了する恐ろしい魔女~ハーピーとの違い

 

オデュッセウスの弓

オデュッセウスが留守の間、妻のペネロペは求婚者達の群れに悩まされていました。

「どうせオデュッセウスは死ぬ」と思っている男たちには、美貌で賢く良妻にふさわしい慎ましさを持ったペネロペをほってはおけなかったようです。

最初のうちこそ、「ひょっとしたら戻ってくるかも知れない」と男たちも遠慮がちでしたが、戦争が5年も続くと次第に態度が大きくなってきます。

舅も歳を取りましたし、テレマコスはまだまだ少年。

男たちの中にはペネロペの侍女を手名付けて、大胆なことをしようとする者も現れるようになったのです。

そんな時、やっとオデュッセウスが帰ってきました。

しかし、用心深い彼はまず使用人、そして息子に正体を明かし、ペネロペには黙っているように命じたのです。

自分の留守をいいことに好き勝手に振る舞う男たちへ復讐するつもりだったのでした。

オデュッセウスをひいきにしている女神アテナはペネロペに「我が夫が愛用の弓を引けたなら、夫といたしましょう」と言わせます。

それはオデュッセウス特製の強弓で、普通の者は引けっこないものでした。

求婚者達は我先に弓を手にします。

しかし、びくともしません。

そこへ旅人に身をやつしたオデュッセウスが登場し、悠々と弓を引いたのです。

それだけではありません。

妻に言い寄る男たちを射殺し、その手先となった侍女達は首を絞めて殺したのです。

そして邪魔者を全て排除したオデュッセウスは正体を現し、夫婦は10年ぶりの逢瀬を満喫したと言われています。

 

オデュッセウスガンダム

オデュッセウスガンダム

なんと機動戦士ガンダムにもRX-104オデュッセウスガンダムという機体が登場します。

これは、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」に登場する軽装タイプのガンダムですが、原作小説には登場していません。

原作小説に登場したのは重装備タイプのRX-104FFという機体で、その名はなんと「ペーネロペー」。

そうです、オデュッセウスの妻、ペネロペの名でした。

ペーネロペーの所属するのは地球連邦軍キルケー部隊という、これもまたギリシャ神話から名をとっています。

 

戦艦ユリシーズ(銀河英雄伝説)

ユリシーズ

オデュッセウスの英語読みであるユリシーズといえば、銀河英雄伝説におけるヤン・ウェンリーの旗艦ユリシーズを連想する方も多いのではないでしょうか?

銀河英雄伝説におけるヤン・ウェンリー提督もやはりオデュッセウス同様の軍略家であり同盟軍の軍師的存在でした。

アニメ作品中でもヤン・ウェンリーがトロイア戦争でのオデュッセウスについて語っている場面もありました。

そのヤン・ウェンリーが旗艦の命名をするにあたって、史上最大の作戦とも言えるトロイの木馬を行ったオデュッセウス=ユリシーズからもらったのもうなずけますね。

 

オデュッセウス ~トロイの木馬を考案した軍師の頭脳~ まとめ

軍師として迎えるなら、これほど頼もしい男はいないでしょう。

しかし、冷たく計算高い性格は夫とするにはどうなんだろう?

と思ってしまいます。

こういう男がそばにいたら、一言一言裏読みをされそうで、うっとうしくなりませんか?

でもペネロペは添い遂げたようです。

このペネロペについては別章で紹介しますが、彼女もかなりの性格をしていたようです。

お似合いの夫婦だったのかも知れませんね。