『ナルシスト』の語源になったという不名誉な形容詞が付く美青年です。

この他には取り立てて目立つエピソードもなく、正直いてもいなくても大勢に影響はなかったのではと思わせる《存在感理由の軽い》美青年を紹介します。

 

多くの求愛を拒絶、愛したのは己だけ

ナルキッソス(メガテン)河の神ケピソスと美しいニンフのレイリオペを両親としてナルキッソスは産まれたと言います。

母親譲りの美少年だったので、人間の女性だけでなく、同性やニンフにも恋い焦がれる者が多かったそうですが、応えようとはしませんでした。

彼は誕生したときに「この子は自分自身を見なければ長生きできるだろう」と予言されていました。

母親は鏡や顔が映る物は一つも息子のそばに置かないよう注意していたそうです。

しかし、ナルキッソスは泉の水に映る自分の姿を見てしまったのです。

それが悲劇の始まりだったのでした。

 

ナルキッソスが泉を覗き込んだ理由とは

彼が泉をのぞき込んだきっかけについては様々な説があります。

ナルキッソスに恋をしたアメイニアスという青年は彼に手ひどく拒まれたため、復讐の女神ネメシス(処女神アルテミスという説も)に「この恨みを晴らして下さい。ナルキッソスを叶わない恋に落として苦しめて下さい」と願いながら、なんとナルキッソスの家の前で自殺したのです。

傍迷惑もいいところで、今なら完全な犯罪者ですね。

自分勝手ながら悲痛なアメイニアスの願いを聞き届けた女神は、ナルキッソスが泉の水を飲もうとした時に、水面に映る彼自身の姿を見て恋に落としてしまったのです。

この時からナルキッソスの苦悩の恋が始まりました。

水面に映るのですから、手を伸ばして触わろうとすれば形は崩れます。

目の前にいるのに抱きしめることも、口づけもできないのです。

恋い焦がれるナルキッソスは泉のほとりで、ただ一心に己の姿を見つめ続けていたと言います。

 

ナルキッソスに恋するエコーとやまびこの誕生

ナルキッソスとエコー

しかし、そこはとびきりの美青年ナルキッソス。

一日中飲まず食わずで泉にかがみ込んでいても、思いをよせる者が沢山いました。

かわいらしいニンフのエコーもその一人でした。

彼女は、浮気中に妻のヘラを足止めするため、話しかけておけとゼウスに命令され、忠実に行動しました。

しかし、ヘラがこのことを知り、エコーの言葉を封じてしまったのです。

とんだとばっちりですが、このせいでエコーは自分の思いをしゃべることができず、相手の言葉の末尾を単純に繰り返すことしかできなくなったのでした。

ナルキッソスと向かい合っても、自分の恋心を伝えることはできません。

何も知らないナルキッソスは無情にも「退屈な子だな」と言い捨てて、相手にしませんでした。

エコーは悲しみのあまりやせ細り、声だけを残してその可憐な姿を消してしまったのです。

声だけのエコーが《やまびこ》になったと言われます。

多くの人間やニンフの気持ちを袖にして、自分自身を愛したナルキッソスもエコーと同様、やつれ果てた末に水面に向かって「さよなら」と言うと息絶えたそうです。

また、いくら口説いても相手の反応がないので、空しさに絶望して自殺したという説もあります。

彼の最期の声をエコーは「さよなら」と繰り返したそうです。

 

ナルキッソス~泉を覗き込んだ理由とは?~ナルシストの語源 まとめ

亡くなったナルキッソスは水仙の花に生まれ変わったと言います。

水仙の花言葉は《自己愛》《うぬぼれ》で、ナルキッソスに似合いの言葉ではないかと思われます。

ナルキッソスが美形であったのは言うまでもありませんが、神に迫られたというエピソードがないのも不思議なことだと思います。

ゼウスなら即手を出しそうな気がするんですが…。

《自分だけしか愛せない》人間を神も愛さないということなのでしょうか。