廓言葉(廓詞)|正しい花魁言葉の使い方について

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廓言葉を使うシャルティア

花魁言葉や廓言葉というのをご存知でしょうか。

時代劇などで、遊女の言葉を聞いたことがあるかたもいるでしょうし、現在では映画やドラマだけでなく、アニメやマンガにも花魁言葉を使うキャラクターが増えています。

この花魁言葉は、廓言葉(くるわことば=廓詞)ともいい、武士とも庶民とも違う、独特の話し方となっています。

廓言葉(くるわことば)と呼ばれた、これらの言葉は、どこから生まれて、どこに消えていったのでしょうか。

廓と廓言葉

廓(くるわ)とは、江戸時代の遊女たちが集められ、堀や塀などで周囲とは隔たれた区画のことを言います。

もとは、町のあちこちに遊女屋が点在していた形でしたが、治安と風紀の問題上、幕府によって1ヶ所に集められました。

京の島原、大阪の新町、江戸の吉原が、当時の三大遊郭として有名です。

いずれも幕府の公認であった場所ですが、中でも吉原は最大級の規模を誇りました。

2万坪の区画の中に多くの遊女屋が軒をつらね、1000人以上の遊女が集められていたと伝えられています。

 

日本最大級の遊郭であった吉原遊廓には、さまざま地方から女性が集められていました。

現代のような、全国各地で通用する標準語が存在しなかったことから、地方によっては意志の疎通ができないという問題が生じました。

客をとるにしても、廓の中で会話をするにも、共通して理解できる言葉が必要だったのです。

また、吉原は、非日常を売りとする場所でもありました。

言葉の訛りは、遊女たちの出身地を明らかにするため、喜ばしいものではなかったのです。

吉原だけの、特別な女性というイメージをつけるために、廓言葉は誕生しました。

吉原の客層は、武家や大店の主人といった、高貴な身分や裕福な者が多かったため、「高貴な女性」を演出する必要があったのでしょう。

優美で気高く、上流階級に属する女性のような響きを与えることで、男性客たちに夢を提供していたのです。

ちなみに、廓言葉は、江戸の吉原だけで使われていた言葉でした。

京や大阪では関西弁を用いていたため、特別な表現は生まれなかったようです。

廓言葉の使い方は

いろいろな表現が見られる廓言葉ですが、主に人称や語尾、廓の中で使用された単語などに分けることができます。

それぞれの使い方を見てみましょう。

廓詞での人称

人称の中で、とくに印象的な廓詞とされるのが、「私」を意味するものですね。

バリエーションが豊富で、「あちき」と表現することもあれば、「わちき」「わっち」と表現することもあります。

遊女屋ごとの特色としても使い分けられていたので、「あちき」と表現するのは○○屋、「わっち」と表現するのは△△屋と、区別されていたのかもしれません。

また、「あなた」と呼びかけるときは、「主(ぬし)さん」という表現になります。

職業別にも呼び分けがあって、武士は「やまさん」、坊主は「げんさん」、番頭は「たなもの」、奉公人は「消し炭」と呼び分けられていました。

さすがに面と向かっては使っていなかったでしょうが、奉公人への扱いがヒドイですね。

お金がすべてのシビアな世界が垣間見えるようです。

廓言葉での語尾

独特な響きの語尾は、数多くある廓言葉のなかでも、とくに目をひきます。

主立ったものをリストにしたので、参考にしてみてください。

  1.  ~です:「~ありんす」「~ござりんす」「~ざんす」
  2.  ~ます:「~なんす」「~す」「~まし」
  3.  ~ません:「~んせん」
  4.  ~ください:「~なんし」

例えば、「~です」を使った言葉では、「くやしいです」が、「くやしゅうありんす」や「くやしゅうざんす」といった表現になります。
「~ます」だと、「します→しなんす」、「おっしゃいます→おっせえす」に変わります。

さらに言えば「いりません」は「いりんせん」、「ございません」は「ござりんせん」のような形ですね。
「してください」は「しておくんなんし」、「見てください」は「見なんし」に変わります。

また、見世ごと、時代ごとにも違いが見られました。
「~です」の表現が、「~ありんす」「~ござりんす」「~ざんす」のように複数存在するのは、見世の違いや時代の違いによって変化が生まれたためだと言われています。

遊女をモチーフとした漫画や小説、アニメに登場するキャラクターなどでは、「~ありんす」が多用されるという現象も見られます。
最も知名度が高い語尾かもしれませんね。

しかし、正しい用法までは行き渡らなかったらしく、「行きます→行くでありんす」のように誤用されることもしばしばです。
「ありんす」は「~です」を意味する表現なので、「~ます」の言いかえとしては使いにくいですね。
「行きます」であれば、「~ます」の表現である「~なんす」を使って、「行きなんす」とするのが適当でしょう。

廓詞の単語

遊郭には、身内の間だけで通じる、隠語とも言える単語が存在しました。

例えば、お客を指す言葉でも、「間夫(まぶ)」といえば本命の客または良い男を指します。

「野暮(やぼ)」といえば田舎者などのダサい客、「塩次郎」といえば、うぬぼれが強い客、「武左(ぶざ)」は無駄に威張っている客に対して使います。

さらに、ばたばたと騒がしい客は「七夕」、馴染みの客は「おゆかり様」、事情があって避けたい客は「さし」と呼ばれていました。

遊女屋のバックヤードで、お客を評価する遊女の姿が、目に浮かぶようですね。

また、遊女屋にいる人についても、「花魁(おいらん)」や「禿(かむろ)」など、由来が気になる呼び名が付けられています。

意味と由来については、以下にまとめてみました。

  • 花魁(おいらん):江戸時代の、最高位の遊女を指す言葉。位の高い遊女には、必ず見習いの少女が付いていて、「おいらんちの姉さん」と呼んでいたことが語源になったと考えられています。 花魁の前は「太夫」、太夫の前は「傾城(けいせい)」と呼ばれていて、入れあげすぎて城を傾けるほどの美女を指す言葉でした。
  • 禿(かむろ):花魁の世話をする、見習い遊女。10歳ていどの年齢から教育される少女のことを指します。 まだ毛が生え揃わない年齢であることから「禿(はげ)」の文字をあてられ、「かむろ」と呼ばれました。 音の響きは可愛いのに、語源が生々しいですね。
  • 忘八(ぼうはち):遊女屋の主人のことを指す言葉。 人間にとって大切な、八つの徳を忘れなければ、やっていけない仕事という意味で呼ばれました。 つまり、人でなしでなければ、やれない仕事だったんですね。

花魁の身分について詳しくはこちら↓の記事で紹介していますので興味があれば参考にしてください。

花魁と太夫の違い|遊女の身分と地位

廓言葉は現代でも使われている

現代に生きる人にとっては、全く無関係と思われる廓言葉ですが、意外なところで当たりまえのように使われています。

廓の中の表現を耳にした、お客の男性を通して、一般にも浸透したためだと考えられています。

主に縁起を担ぐ言葉や、言葉遊びになるような表現が多いようです。

どんな言葉が現代に残っているのかチェックしてみましょう。

モテる

異性から人気があることを「モテる」と言いますが、遊女から「丁重に持てなされる」ことから派生した言葉です。

遊女に持てなされるには、人格、経済力、容貌に優れていなければなりません。

モテるための条件は、今も昔も変わらないんですね。

エテ公

動物の猿のことを「エテ公」と表現することがありますね。

猿は「去る」に通じる言葉です。

お客が「去る」という縁起の悪い言葉を、「エテ(得て)」という言葉に置きかえたことが始まりです。

アタリメ

晩酌のつまみに嬉しいアタリメの本来の名前は、「スルメ」です。

「スル」が、博打などでお金を「擦る」、財布を盗まれる「掏る」に通じるため、縁起が悪いとされました。

「当たり」というおめでたい言葉と置きかえて、「アタリメ」としたのです。

相方

お笑いコンビのパートナーに対して使う「相方(あいかた)」。

お客の相手をする花魁を、「相敵(あいかた)」と呼んでいたことに由来すると言われています。

馴染み

現代でもよく耳にする、「馴染み」という言葉は、同じ遊女のもとに足繁く通うことを意味していました。

互いに親密な間柄になった、客と遊女の両方を指す言葉でした。

キザ

態度や言動がいやみで鼻につく人のことを「キザ」と言いますね。

こちらは、いやみなお客に対して、「気障り(きざわり)」と呼んでいたことが由来しています。

お茶を挽く

茶葉を挽いて抹茶にすることを、お茶を挽くと言います。

廓では、お客がつかない、不人気な遊女にまわされていた仕事でした。

ライバル遊女のお客のために、せっせと挽かないといけなかったんですね。

暇をもてあましているという意味で、現代のお水の世界でも現役です。

アガリ

寿司屋さんで出されるお茶は、「アガリ」と言いますね。

廓では、「お茶を挽く=暇になる」という意味を連想させるため、「お茶」という言葉も避けられていました。

そのため、最初に出すお茶は「お出花」、帰る前に出すお茶は「あがり花」という言葉に置きかえられました。

あがり花が短縮されて「アガリ」となったのでしょう。

指切り

約束を守るためにする所作を「指切り」と言いますね。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~ます」と、韻をつけながら小指を絡めることもあります。

じつは廓では、愛情の証として、遊女が自分の小指を切って、お客に贈るという風習がありました。

「自らの身を切るほどに愛している」という意味で、行われたものです。

爪や髪の場合もありましたが、切り落としたら再生することがない小指が、最も深い愛情を表すものでした。

実際には、遊女の売上向上テクニックの一つで、死人から切り落とした指を渡してごまかしていたようです。

死人の指でも、インパクトは十分ですね。

廓の指切りの風習が、一般庶民にも伝わり、小指を絡めるという現在の方法に落ち着いたようです。

ちなみに、「げんまん」は「拳万」と表記して、1万回のげんこつという意味となります。

こちらも、だいぶハードな約束の交わし方ですね。

廓言葉(廓詞)|正しい花魁言葉の使い方について まとめ

非日常を演出するために大きな役割を果たした廓言葉。

もとは遊女のお里を隠す目的もあったようです。

余談ですが、現代の標準語となる「です・ます」は、遊郭の影響で誕生したという説があります。

お里を隠すはずが、日本語のスタンダードになってしまったんですね。

  • 2019 04.15
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