ギリシア神話上、知名度ではトップ5に入るだろう英雄のはずですが…

筆者の脳内では【脳筋男】のイメージしかありません。

英雄って、知性的で冷静な部分も持ってますよね。

自分では何もできず、部下に助けられていた女好きの劉邦、重要な戦争に負け凋落の一途をたどったナポレオン…

日本史、世界史それぞれに名を残す英雄には冷静で残酷、計算高い面も持っていたのです。

でも、このヘラクレスときたら…

残酷、女好きだけが共通点で、冷静という欠片もなかったように感じられる男なんです。

筆者がなぜそう思ったのか、これから説明していきます。

 

ヘラクレス誕生

ヘラクレス獣神化(モンスト)オリンポスの主神ゼウスは例によって女性に心惹かれ、人間界へと降りてきました。

今回の相手は人妻アルクメネです。

実は彼女はあのメデューサ退治で知られる英雄ペルセウスの孫にあたります。

で、ペルセウスはゼウスの息子ですから、アルクメネはゼウスのひ孫ということになって…

ゼウスにはそんなことは問題ナシですから、とりあえず無視しておきましょう。

アルクメネはアンピトリユオンという男の妻でした。

ゼウスは当然それを知っていましたが、諦めるようなゼウスではありません。

と言っても、アルクメネはガードの固い女性。

なかなか近づけないゼウスは一計を案じました。

当時アムピトリュオンは戦に出征中でした。

全能神は戦況がわかります。

アムピトリュオンが凱旋することを知り、その前に彼に化け、アルクメネの寝室へ入り込みました。

しかも夜の神ニュクスに頼んで、夜の時間を引き延ばした上でアルクメネと交わったと言います。

翌日本物のアムピトリュオンが帰還しました。

しかし、妻アルクメネの反応は鈍いし、戦話をしても「昨日お話ししてくださいました」と言われ、アムピトリュオンは混乱したようです。

どうもおかしいと思い、預言者ティレシアスに尋ねたところ、ゼウスの来訪がわかったのでした。

ここで不思議なのがアムピトリュオンの心情です。

実は彼はアルクメネとは叔父姪の間柄なのですが、美しい姪に長いこと恋い焦がれ、やっと妻にしたばかりだったのでした。

しかし、「相手がゼウスなのだから仕方がない」と悟り(諦め)、アルクメネを責めることはしなかったと言います。

まあ、アルクメネには責任のないことですからね。

さてアルクメネはこの時、ゼウスの子とアムピトリュオンの子の双子を身ごもりました。

アムピトリュオンは産まれる子をゼウスの子として大切に育てようと決心したと言います。

うーん、愛妻の不倫(?)の子を大事にする…

相手がオリンポスの神ではどうしようもないと言うことでしょうか。

逆らったら自分が罰せられそうですからね。

さて、アルクメネ妊娠を知ったゼウスは喜び、思わず「この次に産まれるペルセウスの子孫がミュケナイ王になるだろう」とヘラクレスを王にするために予言をしました。

ところが、これを聞いて黙っていられなかったのがヘラです。

「そうはさせない!」と出産の神であるエイレイテュイアに命じ、ペルセウスの子孫とは言え、別の家系であるエウリュステウスという子どもをヘラクレスより1日早く誕生させたのです。

ゼウスの予言が仇となり、ヘラクレスはミュケナイ王にはなれず、逆にエウリュステウスの臣下となってしまったのです。

このエウリュステウスもかなり愚かな王だったので、ヘラクレスの将来の苦難は予想されていたようなものでした。

 

ヘラの嫉妬、報復

産まれた赤子をミュケナイ王にする道は絶てたものの、ゼウスがヘラクレスを心にかけていることが気に入らないヘラは、始末してしまおうと蛇を差し向けます。

ゆりかごで眠る双子のそばに近づく蛇、気づいたアルクメネは悲鳴を上げます。

そこで目を覚ました赤子の一人はいきなり蛇をつかみ、ぎゅうぎゅうと握ると絞め殺してしまったのです。

もう一人の赤子は火の付いたように泣き叫んでいました。

蛇を絞め殺した赤ん坊-それがヘラクレスでした。

ヘラクレスは成長し、武術を身につけ、剛勇として有名になります。

しかし、その反面、カッとしやすい性格をしていて、竪琴の師匠を殴り殺してしまったというエピソードもあります。

ヘラクレスに音楽は似合わない気がするのですが、当時の若者のたしなみだったのかも知れませんね。

やがて彼は出陣します。

義父アムピトリュオンと共にテーバイ側として戦ったのです。

彼の勇猛さに感動したテーバイ王は娘のメガラを妻に与えました。

ヘラクレスはメガラとの間に3人の息子に恵まれ、落ち着いて暮らしていたのですが、ヘラの憎しみは消えませんでした。

ヘラの術によって、ヘラクレスは狂気に捕らわれ、愛する妻と息子達を自分自身の手にかけたのです。

我に返り、全てを知ったヘラクレスは悲嘆に暮れました。

そしてこの罪を償うためにはどうすれば良いのか、デルポイの神託を求めたのです。

その結果は「ミュケナイ王に仕えて、王の全ての命令を達成しなさい」ということでした。

自分がなるはずだったミュケナイ王…

ヘラクレスは自分から王位を奪ったとも言えるエウリュステウスに仕え、12の命令を達成するため、苦難に挑戦することになったのです。

 

家族殺しの贖罪の旅

ヘラクレスの12の試練については別章で詳しく紹介します。

 

ヘラクレスの棍棒

筋肉もりもりの大男が棍棒を振り上げている彫刻を見ることがあると思います。

それがヘラクレスで、棍棒は彼が愛用していた武器です。

オリーブの木で作ったものですが、ヘラクレスが持つと無敵で、ほとんどの敵を一撃で倒したと言います。

その先端は3つに分かれていたそうです。

 

ヘラクレスと星座

ヘルクレス座

宇宙の中では五番目に大きい星座です。

でも明るい星はありません。

ヘラクレスが亡くなった後、父であるゼウスが星座にしたと言います。

ヘラクレスにちなんだ星座ですが、名前は《ヘルクルス》と微妙に違います。

獅子座

ヘラクレスが達成した12の功業のうち、最初に倒したネメアのライオンが星になった姿と言われます。

凶暴なライオンでヘラクレスも苦戦しましたが、何とか棍棒で倒すことができました。

そのライオンが星座になったのです。

獅子の胸にあたる部分に1等星レグルスが輝いています。

 

12の贖罪を完了。しかし…

ヘラクレス(モンスト)ヘラの嫉妬により、妻子を殺してしまったヘラクレスでしたが、エウリュステウスの命令をなんとか果たしました。

この結果、ヘラの怒りが解け(元々ヘラの嫉妬が原因なんですが…)ヘラクレスはすっきり晴れやかな気持ちでオイカリア王エウリュトスが開催する弓術大会に参加したのでした。

目的は優勝者が結婚できるという王女イオレの美貌に惹かれたためです。

何か、怪しい雰囲気になって来ましたよね。

優勝はしたのですが、ヘラクレスはイオレをもらうことはできませんでした。

エウリュトスは前妻を殺したヘラクレスが不吉だと思い、約束を反故にしたのです。

「約束が違う」と憤慨したヘラクレスでしたが、後にカリュドーン王オイネウスの娘ディアネイラと再婚し、新生活をスタートしたのです。

ところが《好事魔多し》とはよく言ったものですが、ヘラクレスがディアネイラを連れて、カリュドーンという所のエウエノス川を渡ろうとしたときに事件が起こったのです。

ここには橋が無く、渡し守におぶってもらうしか渡る方法がありませんでした。

ヘラクレスはバシャバシャと川に入り、悠々と歩き渡りますが、ディアネイラはそうはいきません。渡し守のネッソスの背におぶわれたのです。

このネッソスはヘラクレスが修業の時に闘ったケンタウロスの一族です。

ところが、ディアネイラの美貌に迷ったネッソスが川の中瀬で彼女を襲ったのです。

悲鳴を聞きつけたヘラクレスはすぐにネッソスを射殺しました。

それだけなら良かったのですが、このネッソスは死の間際、呪いをかけたのです。

それが「自分の血は効き目のある媚薬だ、ヘラクレスの心変わりを止めることができるから、とっておけ」という言葉でした。

ディアネイラがこの言葉を信じてしまったのは、女好きなヘラクレスのことを知り尽くしていたからでしょう。

彼女は密かに自分を襲った半人半馬の言葉通り、その血を隠しておいたのでした。

やがてヘラクレスはオイカリア王エウリュトスと戦いになり、彼を殺し、娘のイオレを連れ帰りました。

その昔、彼がもらえるはずだった王女を戦利品として自分の手に入れたのです。

悲劇が起こりました。

夫がイオレを愛人にすると知ったディアネイラはネッソスの血を使いました。

儀式用にと依頼された美しい衣装にネッソスの血を塗って、ヘラクレスに送ったのです。

妻の心を知らぬヘラクレスは嬉々としてその衣装を身につけ、長年の思いを込めてイオレに振り返りました。

その途端ヘラクレスは大声を上げ、倒れ、のたうちまわったのです。

ネッソスの血は媚薬ではなく、強力な毒でした。

苦しさのあまり、ヘラクレスは息子(ディアネイラとの子)に命じ、火をたかせ、その中に飛び込んで焼死したと言います。

ところがゼウスは息子を見捨てませんでした。

雷鳴とともに、ヘラクレスを天上へ迎え、神の仲間に加えたのでした。

「あなたが父上を殺した」と息子に責められたディアネイラは狂気のように泣き叫び、自ら命を絶ったと言います。

彼女に関してはメディアと同じように《巡り合わせが悪い男と結婚したための悲劇》と思います。

悲劇ではあるのですが、ヘラクレスの死については自業自得という感じが否めません。

彼が思いを遂げられず、絶対心残りで死んでいっただろうイオレですが、何とヘラクレスは息子に「おまえがイオレを娶れ」と命じているのです。

「母上がこんなことをしたのは、あの女が原因、そんな女はいりません」と拒絶はしたのですが、父は強硬に《自分の愛人になるはずだった女を息子の妻に》と言い張ったのでした。

果たして息子がイオレを娶ったのかは不明ですし、結婚したとしても平和な生活だったとは思えません。

ここら辺もヘラクレスの考え無しな証拠ではないかと思うのですが、いかがですか?

 

ヘラクレス~数々の困難を乗り越えた英雄~ まとめ

ヘラクレスの横死後、彼を苦しめたエウリュステウスはヘラクレスの血を疎んじ、息子達を迫害し、戦いになりました。

しかし、さすがはヘラクレスの子どもです。

エウリュステウスは破れ、アルクメネの前に引き出されました。

老境に入ったアルクメネにはその昔、ゼウスの子を身ごもり動揺していた若妻の姿はありませんでした。

彼女は息子を理不尽な死に追いやった元凶の一人であるエウリュステウスの目を抉り、死なせたと言います。

その後のアルクメネは神話に登場しませんが、優しい美しい女性も、年月を経てヘラのように強くたくましい母になるのだと思わせるエピソードだと思います。