クリュタイムネストラ~ギリシャ神話最大の悪女!夫殺しの罪~

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クリュタイムネストラ(輝星のリベリオン)

ギリシャ神話上、【最大の悪女】と呼ばれることもある彼女ですが、その罪は【夫殺し】です。

夫を殺した妻は彼女以外にもいるのに、どうしてひどい言われ方をするのか、彼女の娘イフゲニアやエレクトラの章にも関係がありましたが、今回はもっと深く紹介してみたいと思います。

出生

クリュタイムネストラはスパルタの王女で、父親はテュンダレオース、母親はゼウスが白鳥に化けて交わったという美女レダです。

双子の妹はあのヘレネ。

トロイア戦争の発端となった美女(尻軽女とも)です。

姉妹には兄弟もいたのですが、なぜかスパルタの王位はヘレネのものとなり、彼女と結婚したメラネオスがスパルタ王となりました。

クリュタイムネストラはタンタロスという男性と結婚していたのですが、彼女に引かれたメラネオスの兄ミュケナイ王アガメムノンはタンタロスを殺し、クリュタイムネストラを娶りました。

その際、タンタロスだけではなく、クリュタイムネストラが産んだ幼い息子も斬り捨てたと言われています。

ちなみにタンタロスとアガメムノンは従兄同士の親戚関係です。

姉妹、兄弟で深く結びついたスパルタとミュケナイですが、この結びつきの深さが後々悲劇をもたらす一因となったのです。

トロイア戦争

パリスの審判から始まったヘレネとの禁じられた恋。

そして駆け落ち。

妻に逃げられた夫メラネオスをけしかけ、何年も前の【テュンダレオースの掟】を楯に、ヘレネの求婚者を招集してのアガメムノン出陣については別章で何回か紹介しました。

総大将として大軍を率いることになったアガメムノンですが、性格には色々と問題の多い男でした。

人妻だったクリュタイムネストラを奪うため、夫と子どもを殺したことで一端がわかると思いますが、特徴的なのは【好色】ということです。

トロイア戦争が始まって間もなく、愛人にしていたアポロン神官の娘を返さなければならなくなったアガメムノンは腹いせに同じ境遇で愛人になっていた娘をアキレウスの元から奪いました。

それがきっかけでアキレウスは戦いに参加しなくなり、ギリシャ軍は苦戦することになったのです。

総大将と一騎当千の勇者が愛人のことで争う…本当にくだらないことです。

命がけで付き従っている兵士達の思いはどんなだったかと想像すると、神話とは言え、情けないと思ってしまいます。

そんな夫の所業は当然ミュケナイで留守を預かるクリュタイムネストラの耳にも届いていました。

もともと彼女は好きでアガメムノンの妻になったわけではありません。

ヘレネのように数多い求婚者の中から選んだわけでもありません。

夫の元からムリヤリ引き離されたのです。

わだかまりもあったことでしょう。

そして何と言ってもクリュタイムネストラの心を凍らせたのは【イフゲニアの死】だったでしょう。

イフゲニアやエレクトラの章でも説明しましたが、クリュタイムネストラが一番かわいがっていたのがイフゲニアと言われ、花の盛りに殺された愛娘への思いは何年経っても消えることはなかったと思われます。

また、一節ではクリュタイムネストラはアガメムノンの妻にされたとき既に身ごもっていたので、イフゲニアはアガメムノンの娘ではなくタンタロスの娘とも言われているのです。

それが本当なら、クリュタイムネストラのイフゲニアに対する愛情は別の意味があったはずですし、あっさりと殺させてしまったアガメムノンへの憎しみや恨みはいかほどであったかと考えると単純に【夫殺しの悪女】とは言い切れないと思うのです。

不倫

アガメムノンが出征してから10年。

女手で一国を守るというのは並大抵のことではありません。

普通に生活するだけでも大変だったはずなのに、戦地からは食糧などの要求もあったはずです。

領民の不満や不安を納めたり、なだめたりしながら、年貢を集め、戦地へ送る…気の張る疲れる仕事だったと思います。

早く夫が帰ってこないかと思いつつも、アガメムノンの顔を見たら何をするかわからない-クリュタイムネストラは自分でも恐ろしかったのではないでしょうか。

唯一の気晴らしは娘エレクトラへアガメムノンの愚痴をこぼすことでした。

父親不在の家庭でもよくある光景ですね。

しかし、エレクトラも次第に母親を疎ましく思い、敬遠し始める…そこへ登場したのが、アガメムノンの従兄弟であり、タンタロスの弟のアイギストスでした。

前夫タンタロスもアガメムノンとは従兄弟…ということは一族でクリュタイムネストラという一人の女を巡って殺し合いが起きたとも言えるわけで、ヘレネよりスケールは小さいけど、クリュタイムネストラも男たちの争いの種を蒔いた女とも言えるでしょう。

兄弟ですから、アイギストスとタンタロスは顔立ちも似ていただろうし、共通する雰囲気もあったでしょう。

また、二人にとってアガメムノンは愛しい娘を殺した男(もはや夫とは思ってなかったんじゃないでしょうか)と兄を殺しミュケナイの王位を簒奪した男という憎しみの対象です。

精神的にも結びつくのは早かったでしょう。

そして肉体的にも結びついてしまったのです。

当時は男尊女卑の時代。

夫が不在とは言え、他の男との不倫なんて許されるはずはありません。

臣下達の冷たい目にもまして一番厳しい視線は娘エレクトラから発せられていました。

夫の謀殺

アガメムノンとクリュタイムネストラ

アガメムノンとクリュタイムネストラ

アガメムノンが帰国したら自分たちは無事では済まない-ということはクリュタイムネストラもアイギストスも重々承知していました。

先手必勝とばかり、二人はアガメムノン帰国と同時に殺す計画を立てます。

アイギストスはともかく、クリュタイムネストラは殺されないのでは?

と思いますが、女好きなアガメムノンは他にも愛人がいたでしょうし、トロイア王家のカッサンドラも連れてきています。

「他の若い女がいるからおまえは必要ない」という一言で首が飛ぶかも知れないのです。

意気揚々と帰国したアガメムノンをクリュタイムネストラはにこやかに迎えました。

【神にしか許されないはず】の紫色の敷物の上を歩いて王宮に入るよう勧めたのです。

さすがに渋る夫へ「あなたは神にも勝るご活躍をなさったのですから」と言葉巧みに虚栄心をくすぐり油断させると、「まずは戦場の埃を落としてから…盛大な晩餐会を仕度しておきますゆえ」と入浴を勧め、そこをアイギストスが襲撃したのでした。

トロイアの富が目当てで多くの人々を苦しめ、兵を失ったギリシア軍の総大将アガメムノン。

帰国したその日に自分の王宮であっさりと命を失いました。

彼が連れてきたトロイア王家のカッサンドラもほぼ同時に殺されたことは紹介しましたね。

娘の復讐

アガメムノンを殺したクリュタイムネストラ達は完全にミュケナイの権力を掌握しました。

臣下達からは不満の声が上がったようですが、旗印にすべき王子オレステースはまだまだ子どもでした。

そしてエレクトラも母への憎しみをたぎらせながらも何もできなかったのです。

しかし、少女はすぐに成長します。

下手な男と結婚して自分に刃向かって来たら…クリュタイムネストラはエレクトラを身分の低い男に嫁がせました。

王位から遠ざけるためだったのでしょう。

誇り高いエレクトラは与えられた夫を遠ざけ、夫婦の契りは言うまでもなく、指一本触れさせませんでした。

同時にオレステースを密かに国外へと逃がします。

もはや、エレクトラの頼みの綱は弟だけでした。

小説家桐生操はこの姉弟は道ならぬ関係にあったという小説を書いています。

確かにオレステースはともかく、エレクトラの異常なまでの弟への執着はそういうことを想像させてもおかしくないと思われます。

オレステースが失踪し、多少の不安を感じていたクリュタイムネストラの元に「オレステース様は亡くなりました」という知らせが届きます。

表面上は息子の死を嘆く母親でしたが、内心はホッとしたことでしょう。

ところがオレステースは生きていました。

まずアイギストスを殺し、クリュタイムネストラに向き直ったのです。

衣服を破き、乳房を息子に見せ「おまえはこの乳を吸って育ったのだ。おまえを生み育てた母を殺すというのか!」と説得します。

オレステースは動揺しますが、姉は母を許そうとはしませんでした。

「オレステース、その女は夫を殺した大罪者!許してはいけません。殺しなさい」大声で叱咤され、オレステースは母親を殺したのでした。

母親と娘の相克は娘の勝利で終わったのです。

オレステースを本当に亡き者にしたかったのか、クリュタイムネストラの真意はわかりません。

しかし、同性であるエレクトラとは違い、世の母親のように、息子には愛情を持っていたのではないかと思うのです。

クリュタイムネストラの人生はアガメムノンという一人の男によって振り回されました。

それだけではなく、妹ヘレネの影響も忘れてはならない要因です。

同じ両親の元に産まれながら、好き勝手に生きてゆけるヘレネ。

自分の軽はずみな行いのせいで多くの国や民を苦しめてもケロッとして恥を知らず元の鞘に収まっている妹に比べて、自分にはどうして不幸ばかり巡ってくるのか、神を恨んだのではないかと思います。

そんな彼女にはオリンポスの神罰など、恐れるほどのものではないと考えたでしょう。

神を信じなかった女への罰は自分の息子によってもたらされたのです。

クリュタイムネストラ~ギリシャ神話最大の悪女!夫殺しの罪~ まとめ

あるエッセイに「ギリシャにはエレクトラという名前の女はいるが、クリュタイムネストラという名前の女はいない」と書いてありました。

「夫を殺した女の名前を付けることはあり得ない」ということです。

でもクリュタイムネストラはそんな単純な悪女ではなかったと思うのです。

この時代、意に沿わぬ結婚は当たり前だったとは言え、仲が良かったらしいタンタロスとの仲を裂かれ、子どもも殺された彼女の心境はどんなものだったでしょう。

それでもアガメムノンとの間にエレクトラなども産まれ、少しは心も溶け始めていたのかも知れません。

そこへイフゲニアの件です。

彼女の心は凍てついてしまったのではないかと思うのです。

クリュタイムネストラの人生を紹介しましたが、これでもあなたは【夫殺しの大罪人】だと思いますか?

  • 2017 09.03
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